過去拍手お礼文

□ゆく年くる年
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 テレビからは 除夜の鐘。
『あっ雪が降ってきましたー!』
リポーターの必要以上にテンション高い中継が今は耳障りだ。
でも何も聞こえないよりはマシなのかもしれない。その雑音とは対照的に、この部屋はあまりにも静か過ぎるから。
聞こえてくるのはカカシさんの、任務出立の支度をしている物音だけ。

 仕事納めをした大晦日。奇跡的にカカシさんと休みが重なり、明日は久しぶりに二人でゆっくできるね、と年越しそばを食べ、酒を酌み交わしていたのが僅か三十分前の事。
そこへいきなりの式。まさかの任務。
分かっている、忍びなのだからこんな事は珍しくない。
分かってはいるけれど、それでも酒のせいもありこの後独り残されるオレは、グチグチと嫌味ともとれる文句を垂れてしまい言い争いに。
いや、言い争いじゃないか。騒いでいたのはオレ一人で、カカシさんはほとんど黙っていたのだから。
きっと、こんなオレに呆れたんだろう……。

 膝を抱えて座っていたオレは、丼や徳利が置かれたままの卓袱台を見つめる。
喧嘩をしたままカカシさんが任務に行ってしまう。謝らないと。
けれど子供みたいな事をしておいて、今さらカッコ悪くて謝れない……。
 
 カカシさんを横目で追う。それは、先ほどまで酒を呑んでいたとは思わせない忍びの姿。
オレは完璧に休みモードになって呑んでいたのに、カカシさんはいつ何が起きてもいいように自然とセーブをしていたのだろう。
オレとはまるで違う。
自分が情けなさ過ぎて、ますます謝る事をためらわせる。
いやいや、こんな状況のままカカシさんを行かせるなんてありえないだろう?! カカシさんが呼ばれるぐらいの任務なんだから。
謝らなくちゃ。
ごめんなさい。
それだけなのに。

 頭では分かっているのに、身体は拒むように両膝をきつく抱き込むように背を丸める。 
何をやっている。早く謝るんだ。

『さー今年も残り僅かとなりました! 新年まで、じゅう! きゅう!』
カウントダウンがはじまった。
早くしろ、年を越す前に謝れ!

『はち! なな!』
それでも声は出ず、オレは交差させた腕に顔を埋めてしまう。

『ろく! ごぉ!』
あーーもう自分が嫌になる!!


 その時、背後から強い力で肩を掴まれ、あっという間にオレの身体は畳に押し倒された。
見えたのは天井ではなく、照明の影になった至近距離のカカシさんの顔。

 オレ達は唇を重ねていた。

『ハッピーニューイヤー!!』

 新年を迎える打ち上げ花火が次々と開き、華やかな音を響かせる。

 長い口付けの後、カカシさんの唇がゆっくりと離れた。
「あけましておめでとう、イルカ先生」
「お、おめでとう……ございます」
調子外れの声で、つられて年始の挨拶を返す。

 突然のことでポカンと口を開けたままのオレの上体をカカシさんは起こした。
「これで、今年も先生と仲良くできるね。“一年の計は元旦にあり”でしょ?」
「え?」
「年のはじめをキスして迎えられたんだから、そうでしょ?」
「ち、違いますよ。それは、目標や計画は元旦に立てよ、きちんと最初に計画を立てなさい、ということわざですよ」
「ん? 同じ事だよ。オレの今年の計画は先生と仲良く過ごす事。一年中キスをしていられるぐらいに」

 ……ああ、この人は。

 ろくに謝る事も出来ない、意固地なオレなんかに、何でこんなにも優しいのだろう。

 オレにきっかけを作ってくれた。
鼻の奥がツーンとなる。何をためらっていたのか。

 オレは馬鹿だ。

「ごめんなさい。カカシさん」
ようやく素直に言えた言葉。
 
 カカシさんは何も言わずに目を細め、もう一度オレに口付けをした。



 
 新しい年を迎えたばかりの透きとおった夜空に雪がチラつく。

「じゃ、行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい。お気をつけて」

 素足にサンダルでオレはカカシさんを見送った。
冷え切る身体の中で唯一熱い唇に、彼が触れた唇に、指をそっと当てたまま、彼の姿が小さく見えなくなるまで。




終わり


記念すべき、第一回お礼文。

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