カカイル小説

□右手
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「最近イルカ先生の相手をしてやってないのか?」
突然、何事かとカカシは驚く。

 大戦が終結し安堵したのも束の間。多大な損害を受けた里の復旧で、人々は怒涛の忙しさだ。
まだ正式には発表されてはいないが、カカシが新たな火影に就任する事になるだろう。
そんな奔走しているカカシと火影室前の廊下でバッタリと会ったナルトは、噛み付く勢いでたずねた。

 事の始まりはこうだ。
ナルトはここに来る前に、通りかかったアカデミーの職員室でイルカを見つけた。
声をかけようとした時イルカと同僚の話し声が聞こえてきた。

「イルカ、お前そんなに溜まってるのか?」
「毎晩やっているんだけどなぁ」
「一人ですまそうとするからだろ。その……はたけ上忍に頼めないのか?」
「ばっ、そんな事できるか! あの人は今大変な時期なんだぞ。オレなんかの事で煩わしたくねぇよ」
「だからって、お前“右手”使いすぎだぞ。これ以上無理したら壊れちまう」
「そんなにヤワじゃないって」
「オレなんかでよかったら……遠慮しないで言えよ」
「ありがとな。気持ちだけ受け取っておく」

 何? その会話。
溜まってる? 右手??
リアクション出来ずにいるカカシを非難めいた目でナルトは睨んだ。

 カカシとイルカは、いわゆる恋人だ。その恋人と、忙しさにかまけて半月程まともに顔を合わせていなかったのは確かだ。
すれ違う事は何度かあったが、お互いそばに誰かしらいたし、優先すべき仕事がある訳で軽く目配せをして通り過ぎていた。
里がこんな時なのだから、それはイルカも承知の上だと思っている。

「あーーもう、分かってねぇーなぁカカシ先生は! イルカ先生は明るく見えてもホントは寂しがり屋さんなんだってばよ!」
ナルトはイルカのことになるとムキになる。
「大の大人が毎晩毎晩自分の右手の世話になってるって、イルカ先生が可哀想だろ。そんなんじゃ浮気されっぞ!!」
「声が大きいよ」
大の大人、しかも次期火影が説教されているのもいかがなものかと思うが。
しかし、浮気は聞き捨てならない。
「で、誰なの? その同僚って」
「それはプライバシーに関わる問題なのでお答えできませんってばよ」
ナルトは手のひらをカカシの顔の前にズイっと突きつけ丁重にお断りした。

 イルカ先生だってそりゃ自慰ぐらいするだろうけど、右手を痛めるほど毎晩してるとはなぁ。
先生ってそんなに性欲強かったっけ? 寂しい思いをさせていたのか。
う〜んと両手をポケットに突っ込み、いつも以上に猫背になる。

 そういえば。
ナルトと話すのも久しぶりだ。また背が伸びたな? とカカシはまじまじとナルトを眺め、ある場所で目を留めた。

「お前も右手が無くて不自由してんじゃないの?」
こちらの性事情ばかり咎められてはフェアじゃないとカカシは意地悪な質問をしたつもりだったが、
「オレ? オレはサスケの右手があるから問題ナッシング!」
親指をピンと立て、恥ずかし気もなく答えられてしまった。
「お前、勝手に会いに行ったな?」
サスケは大戦後、これまでの事があるため行動には制限がかかっている。
「ニシシ。そりゃあ、やっと会えたんだ。一緒に居たいってばよ」

 この大戦でナルトは右手、サスケは左手を失った。
しかし、お互い片手を失った以上に、失いようのない絆を二人はようやく手に入れたのだった。
長年に渡るナルトのサスケへの想いは知っている。だからこそわだかまりが解けた事は喜ばしいけれど……。
それにしても、いったい昼間っからこんな場所で元部下と何の話しをしているんだ、とカカシは今更ながら思い直し、頭をガシガシかいた。
まあナルトも大人になったという事か。

「あーーもっとオレもサスケを気持ちよくしてやりてぇ!! 義手を早く作ってくれって綱手のばあちゃんに頼……むぐっ」
カカシは慌ててナルトの口を塞ぐ。火影室はすぐそこだ。
「お前ねぇ、それを絶対綱手様に言うんじゃないよ」
「へ? なんで??」
いや、やはりまだまだ子供か。
カカシは大きくため息をついた。


「カ、カカシさん?!」
周りに無理を言って、なんとか日にちが変わる前にイルカを訪ねる事ができた。
驚き瞳を潤ませたイルカを見て、カカシも気持ちが高揚した。久々の逢瀬だ。
玄関の扉が閉まるより早くイルカを強く抱きしめた。
イルカの右手はやはり腫れていて、少し冷たかった。今夜も一人で?

 カカシはイルカの肩に顔を埋めた。
「ごめんね、センセ。寂しい思いをさせちゃっ……て?」

 イルカの肩越しから見える奥の部屋に視線が奪われた。
その瞬間、登りつめたていた昂ぶりが徐々にクールダウンしていくのをカカシは感じた。

 そこで見たものは、
山のように積んであるアカデミー生徒のノート類に提出物。足の踏み場もないぐらいに。
ちゃぶ台の上にも所狭しと並べられた答案用紙、採点用の赤ペン。そして謎の氷の入ったビニールの袋。

「すみません、散らかっていて」
イルカはカカシの元を離れ慌てて片づけにかかる。

 頭脳明晰なカカシ、いやそうでなくても理解は出来ただろう。

 里を立て直すために忍びたちは階級に関係なく任務へ駆り出されていく。それは内勤の者とて例外ではない。
教員の数も減り、一人当たりに割り振られる仕事が尋常なく増えた。
人一倍真面目なイルカは手を抜くことなく痛む右手を氷で冷やしながら、毎晩激務をこなしていた。

「今夜中に終わらせなくちゃいけなくて。オレ要領が悪いから」
あはは、と笑ってはいるが完全に涙声。瞳が潤んでいたのはこの為か……。

 そうだった、話しを聞いたのはナルトからじゃないか。こんなオチは想定しておくべきだった。
あの早とちりが……。

 カカシは深く息を吐き気合いを入れ、ベストを脱ごうとスナップを外した。
その時、イルカが半歩後退したのをカカシは見逃さなかった。

 この人今、絶対オレが『やろうとしている』と思ったよね……。

 脱いだベストを床に落としカカシはちゃぶ台の前で胡坐をかき赤ペンを握った。

「手伝いますよ、イルカ先生」

「カ、カカシさん」

 イルカの顔がぱぁとほころんだ。
それは今日カカシに見せた、一番の笑顔だった。




終わり


アニナル、サスケの目隠し拘束シーン。エロ過ぎでしたね。ナルサスかぁ……おいおい。

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