カカイル小説

□レンタル上忍
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 今、木の葉の里でブームになっているもの。
それは、レンタル上忍。
好きな上忍が、好きなシチュエーションで、好きなように相手をしてくれる。

 元気になりたい時はマイト・ガイ上忍。
「イルカー! 青春してるかー! あの太陽に向かって走るぞ!!」
汗を流し熱い一日を過ごす。

「イルカ。今晩付き合える?」
ひたすらお酒を飲みたい時は夕日紅上忍。
どちらが先に酔い潰れるか朝まで飲み比べ。

「イルカ。飯食いに行くぞ」
一人っ子のオレだからアニキが欲しい時は猿飛アスマ上忍。
オレのくだらない話しを、くだらねぇーと言いながらも聞いてくれる。

 そして、オレが今一番レンタルをお願いしたいのが、はたけカカシ上忍。
里の誉れ、写輪眼のカカシが自分の恋人だったら……。
こんな身の程知らずな願いだってレンタルだったら叶えてくれる。
もちろんこういった願望を抱くのはオレだけじゃない。男女問わずいたりする。
だからはたけ上忍の予約はかなり先までいっぱいだ。
レンタル経験者は皆幸せそうな顔を浮かべて言う。
やっぱりはたけ上忍は最高。
ああ、早くオレもあやかりたい。


 そしてついにオレの番が回ってきた。

 その日ガチガチになっているオレにはたけ上忍は
「そんなに緊張しないで。いつもの笑顔を見せてちょーだい」
そう言って微笑んでくれた。
「それから、はたけ上忍はナシね。オレたち恋人同士でしょ? 名前で呼んで」
輝く銀の髪に顔を隠していても美形だと分かる輪郭。
はたけ上忍、いやカカシさん。あなたの隣を歩けただけでオレは幸せ者です。


 大げさではなく、これで一生の思い出ができた、そう思っていたのに。
なんと、またカカシさんをレンタルできる事になった。
聞いた話しだとカカシさんは人気があるから二度はないらしいのだが。
「えっ、イルカ先生またはたけ上忍と?」
「おまえメチャクチャ運がいいぞ」
みんなに羨ましがられオレは得意げになっていた。


「イルカ先生、手つないで歩こうか」
街中でカカシさんがオレの手を取り握ってくれた。すれ違う人達がオレに羨望の目を向けてくる。
こんな凄い上忍がオレの恋人なんだぞ!
オレは有頂天なっていた。


 しかし不思議なことに次の日も、また次の日も……。

 カカシさんと過ごす時間が長くなればなる程オレは素直に喜べなくなっていた。
オレの心に葛藤という言葉が芽生えた。

 カカシさんがオレに優しくしてくれるのはレンタルでお願いしているから。
当たり前だ。男で見目麗しくもないこんな冴えない中忍。
本当のカカシさんはオレなんかに見向きもしないだろう。

 それでもこうしていると、もしかしたらカカシさんもオレの事を……。
どこかで期待をしている自分がいた。

 バカな。そんな訳はない。
ダメだ! 本気になったら!!
だってこれは現実じゃない。

 本当の恋じゃない。


 ベンチで二人並んで座っていた。
「どうしたの。オレといてもつまらない?」
いつの間にか無言になっていたオレを、カカシさんが困った顔で覗き込んできた。
「ち、違います!」
そうじゃない……。
カカシさんはどこまでも優しい。それは、オレが望んでいるから。分かっている。
「カカシさんとこうしていると、本当の恋人同士になれたんじゃないかと思えてしまって。あは、図々しいですよね。オレなんかが」

 カカシさんは口布を下し、うつむいたオレの頬にそっとキスをした。
驚いてカカシさんの方を向くと、はじめて見た素顔にまた驚かされた。
こんなに優しくて綺麗な人がオレの恋人……?

 オレは抑える事が出来なくなった。
「カカシさん。オレ、カカシさんが好きです。どうしようもないくらい好きです。ごめんなさい、ごめんなさい」
勘違い野郎にこんな告白されてもいい迷惑だ。でも、止められなかった。
そう言って泣きそうなオレをカカシさんは抱きしめてくれた。

「どうして謝るの? オレはイルカ先生の恋人なんでしょ。違う?」
「……カカシさん」
オレはオズオズとカカシさんの背中に手を回す。それに応えてくれるようにカカシさんの腕の力が強くなった。

 ああ、分かっている。分かっている。いつかは終わる夢の時間。
でもいいじゃないか。もう何も考えるな。

 今がこんなにも幸せなんだから……。




「おい、てめぇ独り占めしてんじゃねーぞ」
上忍待機室に入ってきたアスマは、ソファに座り本を読んでいたカカシを見つけ声を荒げた。
何の事を話しているのかカカシはすぐに理解した。
「独り占めって、ちゃんと長期契約してんだから文句言われる筋合いなーいよ。まっ、このまま永久に空かないかもね」
「おまえマジか?!」

 アスマは、はぁーとため息をつきカカシの隣にドサリと腰を下ろした。
「くそ、だったらもっとイルカと遊んでおけばよかったぜ」
「それはご愁傷さま。おまえと違ってオレは“幼気な弟”じゃ満足できないからね」
「ふんっ、言ってろ」
ふふ、とカカシは目を細めて笑う。

 待機所に向かってくるイルカの気配を感じた。全身に喜びをまといながら息を弾ませ階段を駆け上がってくる。
まるでこの世界には想い人ひとりしか存在しないかのように、ただその人だけを目指して。

 カカシは静かに本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。

 オレに“ひたむきな恋人”。

 さて今日はどこまで可愛がってあげようか?
レンタル先生。




終わり


最後は『世にも〜』風で。
珍しくタイトルが先に浮かんだ話。←いつもタイトル決めはやっつけ仕事。

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