カカイル小説

□嫌い
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 人間、好き嫌いがあるのは仕方がない。
それを強要するつもりはないし、されるつもりもない。
嫌いな相手ならば、必要最低限の接触しかしなければいいだけの話。
大人なんだからそれなりの対処は出来るはずなのだ。

 だからこの目の前の上忍が、嫌いなはずのオレに何故必要以上に絡むのかが分からない。

「ねえ、どれだけ待たせるの?報告書一枚見るのに時間かかり過ぎでしょ。こっちは任務で疲れているんだからさ。あんただけよ、他はもっと捌けているのに」
「お待たせして申し訳ありません。ミスの無いようこちらも確認をさせて頂いてます。訂正があり、再度お疲れのところを煩わせてもいけませんので」
顔を上げずに、手と口を動かす。
「減らず口はいいよ。余計な事言ってる暇があったら……」
「はい、確かに受理しました」
最後まで言わせず、ニッコリと作った笑顔を見せてやる。
「次回は少しでも空いている列に並ばれる事をお勧めします」
ちっ、と盛大な舌打ちをして、上忍のはたけカカシは背を向けた。

「おい、イルカ。今の対応は不味いだろ?」
隣に座っていた同僚が肘でつついてきた。 
オレだって、こんな態度は取りたくない。けど顔を合わせればオレにだけ嫌味を投げかけてくる。
オレ、何かしたか?
今までこれ程露骨に人に嫌われた事なんてなかった。正直、落ち込む……。
でも、嫌いならば関わらないで欲しい。ほっといてくれ。
オレは大きなため息をついた。



 里外任務に就くことになった。特別上忍とのツーマンセル。当初、別の中忍に当てられたのだが、その中忍は直前に病に侵された。それでオレに回ってきた訳だ。いわば代理。
張られた結界の術を解く、その国の地理に詳しい。この両方をサポートできる者として急遽オレが選ばれたのだ。顔見知りだった特別上忍がオレを推してくれたようだ。例え代わりだとしても、スキルを評価された事は嬉しかった。
久々のAランク任務。何度か受けてはいるが、この緊張感に慣れることはない。死と隣り合わせ。もちろん、覚悟は出来ている。むしろ自分が忍びであることを感じる事が出来るこの瞬間に、歓喜で胸が踊った。

 高ぶった感情を押さえ大門へ向かうと、
「何、その嫌そうな顔? あんた、ホント正直に顔に出るよね」
そこにいたのは、オレを嫌うはたけカカシだった。
「いえ、そんなつもりは」
「オレが進言したのよ。あんたが、あの中忍の代わりになるとは思えない。だったら、もう片方でバランスを保つしかないでしょ?」
オレのせいで落ちた戦力を、上忍のあんたが補うって事か。どこまでオレを下に見ているのか。
いや、でも病に倒れた中忍はオレより優れていたのは確かだ。この上忍の言う通りかもしれない。自分の実力は自分が一番知っている。
「あんたに戦忍の働きなんて期待してないから。もしもの時は自分の命を守ることを優先してよ。オレの手を煩わせないで」
ここまで言われても、素直に頷くしかない自分が悔しかった。悔しいが感情に任せ冷静さを失ってはいけない。これは任務なのだから。


 他国同士が受け渡す密書を奪う。
事前に入手した情報では忍びの数は二人と聞いていたのに、蓋を開けてみれば倍の四人だった。

 解術をどうにかこなし、先ずはオレの役割は果たせた。が、さらに二人の増援が現れ、戦況はこちらが不利になるばかりだった。
「ちっ。こちらの情報が漏れていたのか? やはりあんたを来させるんじゃなかった。取るものを手に入れたらすぐに引き上げる。いい? 死・ぬ・な」

 戦闘は激しくなる。オレは防戦一方になっていた。相手は上忍クラスの腕を持つ忍びばかり。しかしオレに致命傷を与えることは出来ない。カカシさんが、オレを庇って戦っているからだ。
オレは足手まといになっている……。
そう思い始めた心のスキを突かれ、気付いた時には目の前に敵がいた。
鮮血が飛び散る。
カカシさんが敵の腕を切り落とした。
「気を抜くな!」
オレに怒声を上げ、その男が持っていた密書の巻物を手に入れた。素早く印を切り、それが本物と判断したカカシさんの退散の合図で、オレもすぐさま駆け出した。

 敵の忍びとオレとでは力の差がありすぎた。このままでは、必ず追いつかれる。
オレの前方を跳んでいたカカシさんが振り向きざま叫ぶ。
「遅れるな、ついて来い!」

 任務は密書を里に届ける事。
このまま二人で里を目指すより、確実に任務を遂行するには? その為に、少しでも敵を減らすには?
追っ手は五人。カカシさんなら、戦闘を避ければ五人を撒くことは出来る。それは、オレがいない場合の話だ。この人は“傍”にいる同朋を守ろうとする。必ずだ。例え嫌いな相手でも、個人的な感情で見捨てるような事はしない。それは先程の交戦でよく分かった。
いや、そんな事はさせない。これ以上お荷物になるのは御免だ。オレだって木の葉の忍びなのだ。何としても任務を果たす。
密書をオレが持てば、最低でも一人はオレに付くはず。あの敵、一人を引き付けられるのなら大手柄じゃないか! そりゃあ、カカシさんに比べたら小さな功績かもしれないが。

「カカシさん!」 
スピードを上げカカシさんの横に並ぶ。
「往路とは違う左回りで。森が多いので身をくらませます。あなたはこのまま里に向かって下さい!」
「何っ?!」
オレはカカシさんから巻物を奪う。
そして進行方向を変え、木の幹を渾身の力を込めて蹴った。


 目論んだ通り、一人の敵がオレの後を追ってきた。大柄であまり敏速ではない忍びで助かったが、それでも追いつかれるのは時間の問題だった。
足を狙われ地に落とされる。

 オレはいいように叩きのめされた。それでもこちらだって意地がある。力の限り応戦した。

「手を煩わせやがって。万が一とお前に付いてみたが、やはり本物はあっちか」
「ぐっ!」
男はオレから奪ったダミーの巻物を術で燃やし、立ち上がれなくなったオレの腹を足で踏みつけた。

「あの銀髪、まさか写輪眼が出てくるとはな、誤算だった。だが、あいつら四人が相手ならいくらヤツでも勝ち目はねぇ」
男は血の混ざった唾を地面に吐き出す。
「忌々しい木の葉め。お前はここで消す。だが仲間がされたのと同じ様に、先ずは腕を切り落としてからだ」
背中の長刀を抜き、光る刃を天に向かって振り上げた。

 カカシさんは無事切り抜けただろうか。いや、そんな心配はいらない。あの人は木の葉一、優秀な忍びなのだから。
嫌われていたけど……最後は役に立ったと褒めてくれるといいな。

 腫れて半分しか開いていない目をオレは静かに閉じた。


 しかし、刃はいつまでたってもオレに触れてはこない。
不審に感じ再び重い瞼を持ち上げると、男は大きく傾き、そのままドサリと崩れ落ち、地に顔をつけた。

「カ、カカシさん……」
屍となった男の足元に、クナイを握りしめ全身に返り血を浴びたカカシさんが、息を切らし血の気の無い顔をして立っていた。

「あんた馬鹿なの?! 命を優先しろって、死ぬなって、オレ言ったよね?!」
怒鳴り散らしクナイを投げ捨てる。倒れ込んでいたオレの肩を両手で掴み、強引に上体を起こした。

「なんで戻って……」
「うるさい!!」
いつもは隠している左目を晒し、今にも泣きそうな顔をしてオレを見る。

「いい加減自覚してよ……あんた、オレを殺したいの?」
痛む身体を、息が止まるほど強く抱きしめられた。



 オレは上忍のこの人を殺せるぐらいに、愛されているらしい。




終わり  


珍しく忍者してる話。最初で最後かもww限界を感じる(-ω-)

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