迷い雀は如何鳴く《碧瓶》

□朝
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ひやり
爬虫類特有の皮膚が頬を撫ぜる。
しゅるしゅると床を這い、体の上にのしかかる重みで目を覚ました。

「あー…うなぎちゃん、おはよ。」
トマが寝ぼけ眼で何とか声を絞り出す。
嗄れた声を老婆の様だ、と奥のベッドでワサビが笑う。
広々とした部屋には様々な装飾がされ、小物が山を築いていた。
まるでサーカステントの準備中の様に色とりどりに飾られた部屋で、ツボミはレポート課題に手を忙しなく動かしている。
提出はそれこそ二週間は遥かに先だが、体調を崩しやすいツボミは自ずから早く手をつけるのだった。
「つかワサビも今起きたんだろ!」
「うげ、バレた」
トマに図星を突かれ、ワサビもずりずりとベッドから重い体を下ろす。
トマは既にドレッサーに腰をかけており、髪を櫛に通していた。

「ほんっと変な色だよな、その髪」
ワサビが指先にくるくると髪を巻き付けながら言う。
"変な色"というのは恐らくトマの髪の毛の事だろう。
ピンクとも紫とも水色ともとれぬその髪は、光が当たる度にきらきらと色を変え様々な表情を見せた。
彼女の本来の髪質も相まって綿あめのように見える。
「私は気に入ってるんだけどな」
髪を念入りに梳かしながらそう呟くと、即座に付け加える。
「綿あめみたいで」
「ほんとお前そればっかだな」
「ワサビも変わんなくない?」
そうこうしている内にツボミはレポートを書き終えたらしく、羊皮紙をトントンと纏める。
「あ、終わったの?」
振り向くトマは髪に星屑でできた髪飾りを着け終わっていた。

必要の部屋
あったりなかったり部屋とも呼ばれる。
この部屋が私達三人の部屋替わりになっているのだ。

というのも『部屋が足りてないの』と涙目で縋りつかれては断る葦もなかったわけである。
何だかんだ部屋の使いやすさも居心地も総じて良く、すっかり馴染んでいるのだが。
こうなった経緯をぼんやり思い出しながらツボミは二人と共に一時間目の魔法薬学教室へと向かった。
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