灯火
□プロローグ
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上も下も…右も左も何も無い。
闇という名の暗闇が、無限に広がる無の世界。
しかし、何も無い闇が支配するこの空間で、紫色の光の線が幾度も閃光しつづけていた。
その中には、絶叫し頭を抱えながら踠き苦しむ少年が一人。
「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
紫色の光が、電気が弾けるような無機質な音を立て幾度も閃光し少年の身体を包み込む。
その姿は、まるで紫色の光が槍の雨となり、少年に降りそそぐようだった。
「うっ、うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
依然として踠き苦しみながら絶叫する少年の前には、肩で息をする傷だらけの少女が二人並んで対峙していた。
「氷華っ!!このままじゃ誠の身体がもたないよっ!!」
大きくてまん丸な目をした、まるで人形のように整った顔の少女が、胸下程まで伸びた栗色の髪を揺らしながらもう一人の少女に向かって叫ぶ。
「言われ無くても分かってるっ!! でも、どうしたらっ……。」
氷華と呼ばれる、凛とした雰囲気で鼻筋の通った、綺麗に整った顔をした少女が、肩より少し上まで伸びた綺麗な黒髪を乱しながらもう一人の少女に叫び返し、今の状況を打開する為の術を少し考えた後、もう一人の少女に向かって叫んだ。
「陽子っ!! あんたの能力であの雷を無効する能力創れないっ!?」
「だめっ!! 時間が足りないっ!! 能力が完成するまで誠の身体がもたないっ!!」
陽子と呼ばれる栗色の髪の少女が氷華の問に必死に答えた後、なんとか少年に近づこうとしながら氷華に問いかける。
「氷華っ!! 氷華の能力でどうにか出来ないっ!?」
「無理っ!! 施設のみんなと私達を切り離す為に創ったこの空間のせいでしばらく何も創れないっ!! 」
氷華は陽子の方へと近づきながら叫んだ。
「……それに、もし創れたとしても私の能力じゃ……。」
氷華は少し俯き、悔しそうに唇を強く噛みしめる。
「う、うぁ、うぁぁぁぁぁっ!!!!!」
少年を包む光は、徐々にその強さを増していく。
「だめっ!!このままじゃ誠がほんと死んじゃうっ!!」
「だからそんな事分かってるっ!!でもどうすればいいのっ!!」
氷華は陽子の言葉を聞き、拳をこれでもかというほど握り締めながら叫ぶ。
その拳からは悔しさと共に紅い液体が滴り落ちる。
「うぁぁぁっグフッ、カハッ!!!」
少年の口から紅い液体が飛び散る。
「「誠っ!!」」
少年の身体は既に限界だった。先程までの絶叫は悲鳴に変わり、不気味で無機質な音をたてながら紫の光が激しく閃光した。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
激しい閃光と共に少年が大きく悲鳴をあげたその刹那、二つの影が素早く動き、少年を紫色の光とは別の何かが少年の身体を優しく包み込む。
少年の身体を包んでいた紫色の光は、まるで優しく、そして暖かな何かに溶かされていく様に徐々にその輝きを失い、静かに消えていく。