灯火
□Episode.1
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四月を迎えたばかりの心地のよい小春日和。
桜並木を歩く一人の青年がいた。
桜舞う青空の下、その青年は小さく呟く。
「あれからもう7年か……」
そう小さく呟いた後、指にはめられた銀色に輝く二つ指輪を優しく触れ見つめながら、青年は哀しげに微笑んだ。
そして青年は、哀しげな顔のまま桜の花が舞う青空をゆっくりと仰いだ。
しばらく空を仰いだ後、青年はポケットの中に入っている小さな携帯端末を取り出しその液晶に視線を落とす。
「やばっ!! もうこんな時間っ!? 早く行かないとっ!! 」
液晶に映る数字を見た青年は焦った様子で桜並木を走り抜けて行った。
――時を同じくした頃、とある学校では、白い軍服に似た制服を身に纏った二人の少女が『学園長室』と書かれた札の付いた部屋の前にいた。
胸元まで伸びた栗色の髪をした、綺麗さの中にもどこか愛くるしさを感じさせるような顔をした少女が扉を軽く三回叩く。
「楓さん、桜井です。若月も一緒です。」
「来たか……入れ。」
「失礼します。」
二人の少女が扉を開けて中に入ると、そこには胸元まで伸びた黒くて綺麗な長い髪をした、軍服の様な服を身に纏った、凛とした佇まいの綺麗な女性が椅子に座って扉の方を向いていた。
「突然呼び出して悪かったな。」
そう言いながら、長い黒髪の女性は椅子から徐ろに立ち上がり、二人の女生徒へ歩み寄る。
「いえ。それより楓さん、玲香はともかく私まで呼ばれたのは何故ですか?」
栗色の髪の少女の隣にいた、短い黒髪のいかにも真面目で、綺麗さの中にどこか男の子っぽさをも感じさせる見た目をした少女が、不思議そうな顔をして楓と呼ばれる綺麗な女性に問いかける。
「わかちゅき……玲香はともかくって、なんかひどくない……」
先程扉をノックした玲香と呼ばれる少女は、短い黒髪の少女の言葉に眉を八の字に下げ、悲しそうに肩を落とす。
「ごめんごめん; そういう意味じゃないからさ?;」
そう言って肩を落とす桜井を見て、黒髪の少女が少し焦った様子で桜井の頭を優しく撫でる。
すると、先程まで悲しそうな顔をしていた桜井の顔色がどんどん晴れ、明るくなっていった。
「ふはははは! お前らは相変わらずだなっ!」
それを見ていた楓は、綺麗でクールな見た目にはとても似合わない豪快な笑声をあげた後、二人にそう言った。
「はぁ〜……何ですかそれ。それより、そろそろ私まで呼ばれた理由を教えて貰っていいですか?」
黒髪の少女は楓の言葉に少し呆れたようにため息をついた後、楓に再び問いかけた。
「そうだったな。若月を呼んだのはだな……桜井だけじゃ少しばかし心配だったからなんだ;」
楓は人差し指で頬を掻きながら、バツの悪そうな顔をして桜井方に少し目線を向けた後若月と呼ばれる少女の問いに答えた。
「なるほど! それなら納得です!」
楓の答えを聞いた若月は、そう言いながら左の手の平と握った右手を合わせた後数回頷く。
それを見た桜井は、「ふぇ〜; 二人して酷いよぉ〜;」
と言って眉を八の字にし、肩を落として項垂れる。
しかし楓は、そんな桜井を軽くあしらう。
「悪かったな。そんな事より話しを戻すぞ。」
「そんな事って……」
楓の言葉に釈然としない様子で、また眉を八の字に下げる桜井だったが、若月に「まぁまぁ」と諭され、大人しく楓話しを聞く事にした。
「わざわざ二人に来てもらったのはだな、お前らと同じ“一輪華”に今日から編入生が入る。だからその案内を頼もうと思ってな。」
「「!?」」
楓の言葉に二人は驚いた後、真剣な顔で楓の顔をじっと見た。
「……編入そうそう“一輪華”ですか……。試験も無しで大丈夫なんですか。」
若月は真剣な顔のまま楓に問いかける。
「まぁ、会ってみれば分かるさ。」
そう言って楓はどこか嬉しそうに口角をあげ、微笑んだ。