SHORT
□実は君を愛している
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悪魔娘のリーザが人間の女の子である理恵を監禁してから、何百年かの時が経った。
実力もあり、優秀で才能溢れるリーザの魔法によって成り立つ森の中の小さな家。
森の中でさえ現実ではなく、完全にリーザの箱庭であるこの世界で常に変化を見せるのは理恵だけだ。
「気持ち悪い」
監禁されたその日の年齢、14歳からずっと変わらない姿を保った理恵の心は、やはり14歳からずっと変わることが無かった。
人と関われず、外にも出れないなら必然的に精神年齢は成長しないまま。
むしろ長期間監禁されているその状況に、理恵の心は完全に蝕まれていた。
吐き捨てた言葉は、悪魔に似合わず青い瞳を持つリーザにぶつけられた。
理恵の言葉にリーザは傷ついた顔をした。
「そんなこと言わないでください。私は貴方を愛していて、」
「もう聞き飽きたんだけど、他のこと言えないわけ?本当に気持ち悪いんだけど。何回言ったらやめてくれるの!?何でここに閉じ込めたの、出してよ!クズ!!」
語彙力も何百年も生きたにしては全く成長していない。それは単にリーザが理恵に本を読ませることを嫌うからだ。
本が嫌いだ。理恵が目を輝かす本が、大嫌いだ。けれど大好きだ。
本をちらつかせれば、変わらない日々に降りて来ようとする娯楽に僅かに理恵の期待が高まる。それを目の前で燃やしてやったときの絶望と、苛立ちと、屈辱さが好きだ。愛している。
そんな歪んだ愛に当てられ、理恵のリーザに対する嫌悪感は酷いものとなった。
「気持ち悪いなんて、そんな、」
「出てって!!アンタなんか死ねばいいのに!!」
悪魔に死ぬも何もないのは分かっているが、理恵は苛立ちをそうやって空想にぶつけることしかできなかった。
思春期の大切な時期とこれからの希望溢れる生涯をたった一人の悪魔の恋心によってぶち壊された理恵。そうなってもおかしくないのだ。
リーザはまた困惑した。
やはり理恵に好いてもらえない。少し時間を掛けて慣らしていたはずなのに、一向に仲良くなってもらえない。
名前すら一度も呼んでもらえていない。
勿論もともと悪魔であるリーザにきちんとした名前があったわけではない。
彼女は夢魔であり、それ以下でもそれ以上でもないが故に名前など無かった。
理恵に一目惚れしてから名前を愛用するようになった。
理恵は絵が得意だ。特に現代の人々に合うように省略化された人間の絵を描くことが。
描いた人物に名前を付ける者は多く、理恵もその内の一人であった。
そんな彼女の一番のお気に入りなのは、¨リーザ¨。女神のような容姿の女性で、悪魔のリーザとは似ても似つかないような姿だ。
悪魔のリーザは肌は白くない。灰色の肌。
夢魔として身体は抜群の状態にある。女神のように豪華に着飾るわけでもなく、厭らしく露出した衣装を身に着ける。
背中から存在を主張するのは白い翼でなく、圧迫しそうな程の黒い蝙蝠の翼。
女神のリーザと、悪魔のリーザ。
理恵が望むのは女神のリーザだろうが、実際彼女の目の前で歪んだ愛を囁くのは悪魔のリーザだ。
リーザは悪魔なりに悲しかった。
夢魔としての能力を駆使しても、自分なりに優しくしても、宝石やドレスを捧げても理恵は自身を愛してくれない。
好きだと、愛していると囁いてくれない。その黒曜石の瞳を憎悪に燃え滾らせて、一向に気を解いてくれない。
憎悪に燃えた理恵の瞳もリーザは愛しているが、理恵の全てを見たいと考えるリーザには物足りなかった。
「理恵、出てきてください。お話をしましょう。何もしません。お願いです、出てきて…」
神に許しを乞うようにリーザはその扉の目の前で懇願した。
破ろうと思えばいとも容易く破ることのできるその扉を破ろうとしないのは、単に理恵にもっと嫌われることを恐れるから。
今日もリーザは祈り続ける。
理恵が自分を受け入れてくれることを。
愛してくれるようになることを。
「理恵、理恵…愛していると言って…」
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