無垢な慾深

□ポインセチアが色を付ける頃
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地区予選から私はマネージャー業に復帰した。精市さんは術後すぐは辛そうにしていたけど、数日経てばもう一人で歩けるくらいに回復していた。夏休み中にもう一度手術を受けるそうなので、動けるうちに少しでもトレーニングしておきたいからとリハビリの合間に筋力トレーニングを行い選手復帰を目指していた。

そして大会が始まる。今年の関東大会は波乱が巻き起こった。
強豪氷帝学園が初戦敗退。通常五試合で決着するところ六試合までもつれ込み、控えの一年生選手が青学を勝利へ導いたのだ。試合を見学することは出来なかったが、氷帝選手と応援軍団の沈んだ顔は忘れられない。とんでもないルーキーが現れたものだ。

立海はといえば、こちらも順当に勝ち進み、決勝まで駒を進めていた。
大会の帰りに病院に寄って一日の試合内容を伝える。テニスの事になると大真面目な精市さんは試合結果を聞いて時々難しい顔をしたけど、復帰への意欲が高まっているようだった。
明日は決勝当日、そして精市さんの手術日でもある。


「精市さん、明日はやっぱり私だけでも精市さんの所へ……」
「いいんだよ。俺の分もしっかり部員達を支えてやってくれ」
「でも、お側にいると約束しました」
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから。キミは大会に行って、俺の代わりに皆を激励するんだよ」


精市さんの代わりなんて務まるはずない。
だけど、精市さんの心遣いを無駄にしたくもないし。


「出来る限り頑張りますね」
「うん。俺は気持ちだけで充分だ」
「あの、精市さん?」
「うん?」
「ずっとあなたを想っています。だからどうか、また私を迎えに来てください。皆で、待っていますから」


精市さんは微笑んで私の首筋に手を伸ばすと体を近づけるように軽く引き寄せ、耳元に唇を近づける。


「ありがとう。じゃあ、明日の手術が上手くいくように、勇気をもらってもいいかい?」
「はい……何をしたらいいですか?」
「そのまま……」


精市さんは私の首筋に優しく唇を這わせ、控え目なリップ音を立てる。


「ぁ……精市さん、くすぐったい……」
「ふふ、可愛い」


至近距離で見つめ合う。精市さんの手が頭を優しく撫でる度、唇が触れそうになる。その度ぴくりと少し仰け反ってみせる私の様子にくすりと笑い、精市さんは目を伏せると唇を薄く開いて更に顔を近づける。
眼前にある精市さんの端正な顔立ちを眺める余裕など私にはなく素直に目を閉じると、唇に柔らかな感触を得た。
ちゅく…と音を立てながら何度も何度も唇を食み、そのうち唇の隙間に舌先を挿れ、口付けを深くしていく。


「ん……ふ……」


息苦しくなってきたところで、精市さんの手が腿に伸びてくる。


「んんっ……せぇ、いち……ひゃ……」


艶かしい手つきに身動ぐと、一度唇を離し私の顔を見つめてきた。


「エッチな声……」
「ヤダ……恥ずかしいです」
「どうして? 絵梨香の声、すごく可愛いよ」


心なしか精市さんの息遣いが乱れている。だけど、体を触る手は腰のあたりに止まってその先へ行くことを躊躇っている。


「だって……ここ、病院ですよ?」
「わかってる……」
「精市さん、もしかしてシたい……?」
「それはそうだよ。大好きな女の子が目の前にいて、いやらしい声で喘いでるんだから」


無意識に精市さんの下半身を見てしまって恥ずかしくなる。
私まで何を考えているの。


「ダメダメっ、明日手術なんですから、我慢ですよっ」
「そうだな。喉も渇いちゃうしね」
「……お口でしてあげましょうか?」


人差し指をぷすっと唇に軽く埋め込む。


「女の子がそんなに挑発するものじゃないよ……退院するまで楽しみはとっておく」
「退院したらいっぱい抱いてくださいね」
「もう……キミって子は。でもそうだな、これ以上ない励みになるかも」
「ふふっ、よかった」
「明日、テニス部をよろしく頼むよ」
「お任せください! 必ず優勝旗を届けます」


優勝を約束し、手術の成功を祈って帰宅した。
翌日、朝からギャラリーも多く、皆が一試合一試合固唾を飲んで見守る。
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