短編

□遠回りの音階
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越知月光は背が高い。
その上前髪が長いから基本的に目が見えない。

だからだろうか、彼に関する噂は絶えない。


『越知くん、今度は越知月光はメデューサの末裔だって噂されてるの知ってる?』


「…またか…」


『前はのっぺらぼうの亜種だったよね、』


部品がふえたね、やったじゃん。


「……ところでお前はさっきから何をしている。」


『越知月光さんの身体の自由を奪っております。』


「何が目的だ。」


『悪いようにはしない。』


「…それは答えになっているのか? 」


『いいじゃない、それに、最初の頃に勉強教える代わりに何か1つ言うことを聞くって約束したの越知くんでしょ?』


私の今回の授業はおしまい。


テニスの練習、試合、合宿と忙しい彼に休みの分の勉強を教えることになったのはいつからだったか、覚えているのはそれが中学の頃からで私がずば抜けて頭の良い、模範的な生徒だったからということだけ。

最初はお互いに面倒臭いと思っていたこの関係だが、何故か高校生になった今もズルズルと続いてしまっている。


(まあ……私は結構前から好きなんだけどね、越知君のこと。)


越知くんはどう思ってるんだろう、他の子よりは距離は近いし、彼の口数も増えていると思う。
……単なる慣れ、かな。

「確に言ったが……」



気持ち、というものを液体に、それぞれがはいるべき容器をコップに例えよう。
私の彼に対する恋心はとっくに表面張力の限界を超え、おかしな方向へと流れていってしまったらしい。
液体の注がれる速度が早かったのか、容器が小さかったのかは分からない、
だがもう後戻りは出来ないのだ。

彼の、越知月光のみんなが知らない表情が見たい。
私のことで思考を満たしてみたい。
私に依存してほしい、求めてほしい。


『ね、房中術の勉強…しようよ』

手を後ろに、足首は椅子へと縛り付け、彼の太ももへ腰をかける。
無論テニスプレイヤーである彼に怪我などさせたら大変なので緩く、である。


「っ///////」

房中術、そう聞いて顔を赤くする彼は博識なのかムッツリなのか、


『越知くん、』


ごめんね、好きです、そう続け唇を奪う。

しっとりとした越知くんの唇、
何か言いたいのか、酸素を求めてか、越知くんの口を開いたのをいいことに舌を侵入させる。

上顎をなぞり、逃げようとしていた彼の舌を吸う。


「んっ……」


越知くん、きもちいいのかな。
甘い声を漏らす彼に私は気を良くしてシャツのボタンを外して背中をするりと撫でる。


「朝倉っ……」


『…』


越知くんと私の間で銀の糸が切れる。



「……朝倉、手だけでいい、縄を解いてくれないか。」

『……手だけ…?』

手だけって外したらほぼ自由じゃないか。
でもちらりと見えた瞳には逆らえなかった。
……越知くんそんな目で見ないでよ。
越知くんに真っ直ぐ見つめられるのは苦手なの。

『……わかった…』

「……まったく……手が塞がっていては朝倉を抱きしめられないだろう。」


小さくけれどもハッキリとそういいぎゅっと私を抱きしめる越知くん。



『……え』


なんで、どうして、予想外の出来事に私の頭は大混乱。


「……この勉強会が終わったらちゃんと告白しようと思ってたんだ。……好きだ朝倉。」



『越知く…私……』


「……どうやら涙も拭ってやらなければならないな。」


『う…』

ぽろぽろと泣き出した私を越知くんは泣き止むまで優しく抱きしめてくれた。









「好きじゃないやつと高校生になってまで勉強会する訳ないだろう。」


『うう〜;;越知くん足縛られててもかっこいい;;』













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朝倉ちゃんも越知くんも、何より書いてる本人がこんなはずじゃなかったのになって思ってる。
これはこれでと言うことで。


……to be continued…?

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