□写真
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「エジプト…………エジプトへいかなければ」

 DIOが死んだのはエジプトのカイロで、日本ではない。ここで時間を戻しても意味
が無い。

 矢に貫かれてから部屋に戻り、康一や朋子の安否と『エニグマ』戦の結果を確かめた
が―関わったというほど関わっていないためか―本来の結果と変りなく、ジョルナは今
一安心して物思いに耽っていた。

「でも……どうやってエジプトに行ったらいんだろう……」

 ジョルナはまだ中学生で、貯金も何もない。おまけに彼女の今の家族が旅行へ連れて
行ってくれたり、支援してくれたりする筈もなかった。隣県へちょっと遊びに連れて行
ってくれることもないのだ。海外へ行くことなど夢のまた夢。それがたとえジョルナの
生まれ故郷であっても。期待するだけ損なことだった。

「ジョセフ……連れて行ってくれないかなァ……」

 ジョルナが杜王町にきて、気づけば三ヶ月も経っていた。その間、部屋は違えど同じ
ホテルである。ホテルが同じなら自然、食事を共にすることも習慣になったし、愛情深
いジョセフが―正確には叔母だが―孫娘のようなジョルナを可愛がらないわけがなかった。
その上ジョセフは後悔していた。

 幸福をと望んだジョルナが、どうにも幸せそうでないと気づいたからだ。

 自身も諸事情で両親無く、祖母エリナと後見人のロバート・E・O・スピードワゴン
の扶養を受けて育った彼だが、彼は二人の愛情を一身に受けて真っ直ぐ育った。

 後に母リサリサことエリザベス・ジョースターと再会し、母の元で働いていたスージ
ーQと結婚したこともあって、彼は情を、とりわけ愛情を何よりも重視する男であった。
 もとより愛情深いと言われるジョースター一族である。精査して精査して、最適な家
庭を選んだはずだった。なのにそれがどうも怪しく、ジョセフは10年目にして、再精
査を始めたのである。

 しかしジョルナはまだ知らない。

 SPW財団に監視されていたことも、恐らくそうだろうと予想していただけで、承太
郎が現れるまで接触したことは無かった。世界に名高きSPW財団が身辺調査を小娘に
気取られる訳もない。

「これは吉良吉影の件に功績を上げて、おねだりするしかないかな……」

 後にジョセフを苛む良心の呵責を知らないジョルナは、なんとか切っ掛けを掴もうと、
吉良吉廣の逃げた方角へ行ってみることにしたのだった。

 そして通りかかったオーソン前。

「え……と……なにしてるんですか? 随分お疲れのようですけど……」

 息も絶え絶えな岸辺露伴と、広瀬康一に出会った。

「あッ……ジョルナちゃん」

「……そういえば君の『グランド・マスター』でも やつを解除出来たかもしれなかっ
 たな……。電話すればよかった」

「え……もしかしてスタンド攻撃にあってたんですか?」

 ドラッグのキサラとオーソンの前で、精神的に疲労困憊といった様子の二人は、位置
合いから見て、幽霊の小道から出てきたところのようである。

「つ――……ああ……しゃべる以外何もしないがものすごいヤツだった」

「ではもう撃退できたんですね?」

「もちろんだ。だが……康一くん本当……君が来てくれなければ、ぼくはここに来れず
 殺されていたよ……」

「でもいつの間にかここに来るとは……ヤツに夢中で気がつきませんでしたよォ〜。
 あのポストだってわかった時にはぼく、前怖い目にあってるから 心臓が止まりそう
 でしたよー。結果としてよかったけど、ぼくもジョルナちゃんに電話すればよかったです。
 ジョルナちゃんの『グランド・マスター』ならきっと 攻撃を受ける前に戻せたんだ
 ろーなァ〜……」

「まあ無事なら良かったじゃないですか。あっ鈴美さん」

 ジョルナが露伴に手をかし立ち上がらせると、その向こうに散らばった―露伴の持ち
物である―無数の写真を手に取る鈴美と愛犬のアーノルドが佇んでいた。
 散らばった―ファイルに挿まれていたと思われる―写真を貼付された写真と見比べて、
彼女は何かに気づいたようだ。

「この写真 露伴ちゃんが撮ったの?」

「そうだが…………」

「この『一枚』しるしがついてあるけど、どうかしたの? カコってあるの男の子
 みたいだけど」

 彼女が指差した写真には『川尻早人』と貼られたテープに書かれ、赤ペンで丸く囲ま
れた少年が写っていた。少年は駅の柱に隠れて、ホームビデオカメラで何かを隠し撮り
しているようだ。

「ああそいつか…………別にどうって事ないよ。コソコソしてる風なんでちょっと興味
 持っただけさ」

「でもこの『川尻早人』って名前、こっちの男と姓が同じね。二人の関係は?」

「えっそうかい?」

「ほら! 同じよ。あんたが調べたんでしょ」

 ファイルを示されて露伴達が覗き込むと、確かに露伴の字で同じ姓名の男がファイリ
ングされていた。二枚の写真を見比べてふと気づいたジョルナが、写っているサラリー
マンの一人を指差す。

「『川尻浩作』……確かに苗字が一緒ですね。父親を撮影してるんでしょうか?」

「父親……?」

「ほらここの右端の人……同じ人ですよね?」

「ほんとうだ……露伴先生気づいてました?」

「いや……。写真を撮っている日も一日だけじゃあないし……気が付かなかったな……」

 吉良が逃亡してから日数もあき、露伴が撮影した写真の枚数も膨大だ。一度調べた後、
見直している余裕も無かった。

「気になるなら調べてみては? 今のところ手がかりは掴めてない訳ですし」

「……そうだな。明日あたり本人に訊ねてみるとしよう。写真を焼き増しするから、
 康一くん達も手伝ってくれないか? 学年は違うが……同じ学校だったよね」

「ええ良いですよ。仗助くん達にも渡しておきますね」

「じゃあ私もジョセフ達に渡しておきます。ジョセフの『ハーミットパープル』なら住
 所が……ってもう分かってるんでしたっけね」

「ああ、君には今持ってる写真を渡すよ。康一くんは……もう一度ぼくの家まで来ても
 らっていいかな」

 『はい』と答えた康一達と別れて、ジョルナはホテルへ取って返すことにした。
もちろん、吉良を探す為に回り道をしたり、寄り道をしたりである。今朝の出来事から
また、スタンド使いが増えていることも加味して、吉良吉廣もまだその辺をうろついて
いるかもしれない。



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