□杜王港にて
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 キキィーーーッツ!!

「うおっ!!」

 あれから十数分後、レッド・ホット・チリペッパーの『本体』である音石明を船内で
確保。無事杜王港に着港したSPW財団の船から今、ぎこちなくも仲睦まじく降り立った
親子の真ん前に、一台のタクシーが猛然と横付けされ、親子はあわや腰を抜かして倒れ
んばかりに肝を冷やすこととなった。

「こんの〜っ 危ねぇーだろーがよッ!!」

「危ないっですって?! 大丈夫なのッ?!」

「っへ?!」

 タクシーから叫びながら突如現れたのは、歳の頃12、3の黒髪の少女だった。

「お お前さんはッ……!!」

 彼女を見てジョセフは狼狽え、支えにしていた息子の腕から滑り落ち、その場に腰を
抜かしてしまう。

「この感じはっ……まさかッ!!」

 わなわなと身を震わせるジョセフ。その後ろでタラップを渡る承太郎が口を開いた。

「……そのまさかだぜ ジジイ こいつはジョルナ。
 あんたがジョースターから放して養子に出した ジョルナ・ブランドーだ」

「ジョルナ・ブランドー……」

 ジョルナ……ジョルナ……と確かめるように繰り返すジョセフの横で億泰や康一を差
し置いて、一番困惑するのは仗助である。

「あ〜あのー……
 なんつーか、おれ居ないほうが良いっスかねぇ〜〜〜?

(おいおいおいおい養子ぃ? じじいの次は養子ぃ??? こいつはァ〜よぉ〜〜〜〜
  もしかして、もしかしなくても ややこしーい 問題かァ〜〜〜?!
  勘弁してくれよ〜〜〜!!)」

 仗助は生まれて今の今まで15年、会ったことも話したこともない父親に会ったばかりである。

「(……けどよォー……)」

 複雑な心境をさらに掻き乱され、音石との戦闘もこたえたしで正直クタクタだったが、
どうにもこの娘の事が無視できなくもあった。複雑な背景の気配を感じるのに、自分に
とって必要の様な、彼女が其処に居るのが当然で、そう在るべきだと感じるのだ。
 とても不思議な感覚だった。とても安心した。

「……いや 仗助、おめーにも関係が深いからよく聞きな」

 棒立ちになる仗助に代わり、承太郎がジョセフを抱き起こしながら語り始めた。

「こいつはジョルナ・ブランドー。
 今は養子に出て名前が変わっちゃあいるが、もともとはそういう名前だった。

 歳は13。1989年にエジプト《カイロ》で保護され、約3ヶ月後日本の一般家庭
 へ養子に出される。

 養子に出された経緯はこうだ……おまえらも知ってるだろーが DIOは肉の芽で億
 泰の親父さんを化物に変えたり、世界中からスタンド使いを集めまたは増やしてきた。
 おれやおまえや、このジジイの先祖にあたるジョナサン・ジョースターを殺し、肉体
 を奪ったのも悪事の一つ。

 野郎はその上胸糞悪いことに、奪った肉体でガキまで拵えやがった……。 口が悪ィ
 が許せよ……。
 
 とにかくその時の子供がこのジョルナで、生まれながらのスタンド使いだった。
 能力はイマイチ分からなかったが、ジジィはスタンドだのDIOだのから離れて……
 ようは普通の子供で居て欲しかったから 養子に出したんだ」


−DIOの娘−

 それだけで少年達を警戒させるのには十分な言葉だった。この見るからに大人しく普
通そうな日本人の彼女が、たったそれだけで異質なものに見えた。
 ただ仗助を除いて。

「だがおれは間違いだったと思っている……。 DIOの残党に狙われていないか、体
 質に変化はないか、常に秘密裏に把握して置かなければならなかった……。

 その調査の結果で分かった、ジョルナ! おまえのスタンド……その能力ッ…………!
 野放しにして置くには……危険過ぎるぜッ!」

 危険……その言葉に抱き起こし支えてくれた孫の腕を掴む、ジョセフの手は震える。
 彼女が恐ろしいからではない。結局DIOの齎した宿命から、彼女を遠ざけることが出
来なかった、その自責の念から来る震えだった。
 幼い彼女に平穏と幸福を願っての決断だったのに。なんの意味もなかったというのか。

「……無駄……ですよね? 分かっていてそんなことを?

 助けて欲しいから私を突然呼びつけたんじゃあないんですか?
 私のスタンドが脅威だっていうのなら、誰が何をしたところで無駄だって
 …………分かってますよね?」

「……ああ おまえのスタンドは 親父であるDIOのスタンド 『ザ・ワールド』よ
 りも厄介なスタンド…………だからと言っておまえがDIOと同じやつだとは思わん」

「もちろん。 私はジョルナ・ブランドーでもあるけれど、同時にジョルナ・ジョース
 ターでもある……。私は私よ……パパじゃあないわ。怪我はない? 何か取り返しの
 付かない事になったら困るから、私を呼びつけたんですよね?」

「あッ……怪我はしてねーッスよ」

 話にひとまずは落ちが着いた所で、承太郎を支えに立っているジョセフ……彼が気が
かりになったジョルナは、しきりに顔を覗き込んだり背後に回ったり、足元を確かめた
り……。動きまわるのを見て、仗助は我に返り彼女を落ち着かせた。

「……本当ね。その……あなただけ満身創痍ですね」

「あ〜〜〜……おれの『クレイジーダイヤモンド』は物を治すスタンドなんだが、自分
 の傷は治せないんだよ」

「ああ、成る程。 では怪我をしたのは何時間前ですか?」

「ついさっきだぜ。一時間も経っちゃいない」

「一時間…………そう」

 さっと彼女は承太郎の目を見た。見たと思ったら次は仗助を見つめる。




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