□写真
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 その日の夕食時である。ホテルのバイキングラウンジで、ジョセフとジョルナ―赤ん
坊も―が食事をしていると、電話に呼び出されていた承太郎が件の写真を持って戻ってきた。
明日の朝8時30分に《写真の少年―川尻早人―を探しに待ち合わせる》という内容だったようだ。

「住所は分かってるんで、見つからなければ家へ訪ねることになるな……」

「ふむ……しかし通学途中に捕まらんでも学校におるんじゃろ? 仗助達がみつけてく
 れるかも知れんのォ〜」

「……ああ。……じじいとジョルナはここに居ろ。なにか進展があったら連絡するぜ……」

「なにか手がかりになると良いね」

「そうじゃのォ〜……漠然としているよりは何か目的があると探しやすくもなるもん
 じゃからな。わしの『ハーミットパープル』でも、手がかりが全く無くて町に居るこ
 としか分からんもんなァ……。この子の母親の手がかりもないし」

「フ……案外使えねー能力だな じじい……」

「うるさいわッ 10年前はさんざん世話になったろーがッ!」

「フフフッ」

 まだシコリはあるものの、ここ3ヶ月で打ち解けた親族の団欒。気不味いからか、
過去の―DIO―の話にまつわる会話は全く無い。しかし、こうして時たまに『10年前』
等の避けられない言葉が出てくるだけで、ジョルナは楽しかった。

 彼女が置かれている世界に、父―DIO―を知る者は誰一人として居なかったし、
暖かで、安らかで、愛されていることに疑いを感じたことのない唯一の期間を、懐かし
み共有し、思い馳せる事が自然と出来る空間はなかった。今こうして初めて、本当のジ
ョルナを知る者達との会話が持てたのだ。

 10年前の3才の時に、ジョルナの幸せは終わっていた。

「ジョルナ……そのな……その……10年前の事なんじゃがのォ〜」

 談笑が包む食卓に歯切れの悪いジョセフ。
 途端に空気が変わり、二人の視線はジョセフに注がれる。

「明日……明日わしと二人っきりじゃろう?(赤ん坊は居るが)それで……もしおまえさ
 んが知りたければ……10年前の事を……わしらの旅の話を……聞いてみんかのォ〜……」

「……じじい」

「分かっとる。分かっとるが……ジョルナには聞く権利があるはずじゃ。わしはジョル
 ナ……おまえさんを養子に出したことを後悔しとるんじゃ……。わしが幼いころ、
 エリナおばあちゃん……わしの祖母がしてくれたように、おまえさんも何も知らずに、
 ジョースターとDIOの因縁なんかとは 無縁に生きて欲しかったんじゃ……。だが
 運命は……そうはしてくれなかった……わしもかつてそうだったように……どんなに
 隠していても 巡りあい、引き合うものなんじゃあないか……。明日少し話しをしよう。
 聞きたくないことは聞かなくても良い。今まで放っておいて何を今更と思うかも知れんが、
 わしらは家族なんじゃ……家族は話し合うものじゃろう?」

 ジョルナは瞠目した。
 目はジョセフを見ていたが、何も見えず、頭はパニックで真っ白になっていた。感情
が抑えきれずに涙がこみ上げて来る。が、ぐっと歯を食いしばって耐えた。コントロー
ル出来ない感情を無理くり抑えこむのは、この10年で慣れっこになってしまっていた。

「びっくりさせて悪かったのぅ……明日……明日のう……」

「…………うん」

 ジョセフが大好物のステーキを細切れにして口に運ぶと、ジョルナも無理やり笑顔を
作って、楽しい話や、明日の『川尻早人』の話に移った。関係ない話をしていれば、
すぐに涙は引っ込んでくれるのだ。それも10年で学んだ。





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