□杜王港にて
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 時は1999年春、M県S市杜王町に一人の娘が呼び出された。

 ストレートの黒髪に黒い瞳。足元ばかりを眺める視線は、力無いようでいて強い意志
を孕んでいる。
 歳は13。その小さな身体に絡みつく、乳白色の腕と黄金のガントレットを持つのは
幽波紋−スタンド−。随所に空いた穴から歯車が軋みを上げ、合間に挟まれた星をグル
グルと回転させている。本体と同じく―といってもそもそも、そんなモノはないのか―
表情が乏しい、取り澄ました顔のスタンドは、緑色の鋭い眼光で本体を見つめていた。

 強い、堅い意思。その意志に彼らが気づくのは、まだ先の事である。




「承太郎さん……相当やばい相手っスよ〜っ 甘くみてたっスよオレェ〜〜ッ!」

「チリ・ペッパーより先に じじいの船に着かなくてはならん 急ぐぞ……」

 ところは同じ、杜王町の町外れ。電柱の一本も建たない、海岸線を臨む開けた場所。

 虹村億泰、広瀬康一、東方仗助、空条承太郎の四人はレッド・ホット・チリペッパー
の襲撃を受け撃退するも、変わって承太郎の祖父にして仗助の父、ジョセフ・ジョース
ターの危機に急かされていた。


「…チっ間に合わなかったか……」

 一刻を争う杜王港に向かうタクシーの中、承太郎は微かに呟いた。胸中を語るのは杜
王港に着いてから、ボートでジョセフ・ジョースターの乗る船に向かう寸前である。
康一と仗助を港に残すと伝えた時だ。

「だから仗助 おめーは何かが飛んだら この港で『本体』を探さなくてはならねぇ!
 康一くんの『エコーズ』は射程距離50メートル 探すのを手伝える もし やつ
 におれたちのボートより先に進まれたのなら!
 『自分の父親』は おめーが陸地で守らなくてはいけないんだからなッ! わかった
 な………仗助……」

「ああ 一秒を競いそうな事態だっつーことが よーくわかってきたよ……」

 激しい胸の鼓動が少年たちを包み込む。緊迫と緊張、重圧に興奮した彼らの額には、
じっとりと汗が滲んでいる。

「それから一つ……どうも急で間に合わなかったが、手は打ってある。最悪、そいつが
 後から来ればなんとかなるだろうが、……ジジイの次はガキだぜ」

 仗助はじっと承太郎を見つめる。

「……よしてくださいよ」

 決意の瞳に返されて、承太郎、億泰の乗ったボートは沖へ舵を取った。


「ガンバッてね 億泰くん」

「ありがとよ 康一………」




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