□シンデレラとキラークイーン
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「あなた……ねえ、あなたよ……」

 今日の聞きこみを終えて、ホテルへ戻るためにバスターミナルへ向かう道中、呼びか
ける女性の声にジョルナは足を止めた。

「フ〜〜〜……不思議ね、あなた…………」

 振り返ると少々奥まった入り口に、髪を後ろにまとめ、コルセットの洒落た白衣を纏
ったエステティシャンが立っていた。丁度、客を見送りに出たのだろう。彼女もまた、
矢に射られて芽生えたスタンド使いだ。

「シンデレラの辻彩さん……ですよね。 康一くんから聞きました。
 …………何かご用ですか?」

 彼女のスタンド『シンデレラ』は、肉体のイメージを変換するスタンド。人相を見極め、
運勢を掴むことで、多くの女性達を幸福に導いてきた。

『愛と出会う メイクいたします』

まさに立て看板の通りである。

 先日、何かと問題の多いスタンド使い『ラブ・デラックス』の山岸由花子もその一人
になった。

「ごめんなさいね〜〜用というほどのことでもないのだけど……フ〜〜〜
 とても気になったの……。特別目を引く美人……ってわけでもないのに……フ〜〜〜
 あなた言い寄られてな〜い〜〜〜? ……固執というか〜〜〜……執着かしら?
 本当に不思議ね……フ〜〜〜 綺麗な髪……あなた髪を染めたことは?」

「……ありませんけど」

 職務意欲は旺盛ながら気怠げな口調の辻彩は、職業柄か無遠慮を自然に超え、ジョル
ナの身体のあちこちをめくったりさすったり……髪を手に取りひとしきり眺めた今は、
瞳を覗き込んでいる。

「変ね〜〜〜眼もカラーコンタクトではないみたいだし……
 不思議だわ〜〜〜……あなた……言い寄られて困ってな〜い〜?
 あなたの場合、瞳がそんな形をしているわね〜〜〜
 
 気をつけた方が良いわよ〜〜〜 手は神経質な人に好かれる形だし
 首元は強い執着を惹きつける形なのよね〜〜〜」
 
「……特に、言い寄られたことはありませんけど」

 異性交友が盛んな昨今とはいえ、ジョルナはまだ13才。言い寄るのが純な同級生で
もなければ、犯罪もいいところである。また恋におませな質でもないので、一切経験に
無かった。

「あら、そう……フ〜〜〜 でも気をつけて
 きっと、あなたのことお構いなしに 手に入れようって男(ひと)がいるわよ。」

 そう言うだけ言って、辻彩は店内へ引っ込んでしまう。次の客が待っている風でも無い。
低血圧ぽい彼女だから、日向で長時間立ち話は辛いのかもしれない。それにしたって藪
から棒である。
 13才(もうすぐ14才だが)のジョルナを手に入れようとする? 随分思い切ったア
リス趣味の男が現れるものだ。それとも今後成長してから、と辻彩は伝えたかったのだ
ろうか。どちらにせよ、ジョルナは恋に興味が無かった。

 一方当の店内では

「大丈夫かしらあのこ…… 愛が深いのも困りものね」

 少女のどこか疲れた姿を思い出し、辻彩が鏡台の前で独り言ちていた。
 彼女はこれまで愛を得られる『相』を『シンデレラ』で数々の女性に授けて来たが、
逆に愛を退ける『相』を勧めて良いものか……何が最適なのか分からなかったのだ。

 ところ戻ってエステ・シンデレラ前。辻彩が最後に言っていた「困ったら……いつで
もいらしてね」の言葉に、ジョルナは看板を見返していた。

「愛に出会う、か……恋人じゃなくて、家族愛でも手に入るのかな……」

 紆余曲折あれど由佳子が実際、康一との愛を確かなものにしただけに、方向は違えど
ジョルナも少し試してみたい気持ちになっていた。

「でも今は家に居ないし……30分じゃ無理かな……」

 『シンデレラ』の効力は30分。それ以上の時間は高額すぎて、とても手が出ない。
血縁で言ってしまえば、親元から離れた今の環境の方が親族に囲まれている筈なのに、
現在の家族を思い浮かべると、彼女はすぐに諦めてしまう。ならば本来の家族、親戚は
どうだ……といってもジョルナはジョースター一行に保護されるまで、戸籍を有してい
なかった。養子に出されて初めて登録されたので、ジョースター一族とは戸籍上、赤の
他人である。危機管理のためでも、承太郎に呼び寄せられなければ、一族とは望むべく
もない画餅なのだ。その上父もその部下達も今は居ない。諦めて然りである。




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