□事件現場はシンデレラ
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「ジョルナ……おい…………ジョルナ」

「気ィーつかねーなァ〜〜 おい ちゃんと治したのかよ仗助ぇ〜〜〜〜」

 吉良にまんまと逃げおうせられてから直ぐ、エステ・シンデレラの店内。仗助の腕の
中で力なく横たわるジョルナにせっつく承太郎と、心配する億泰、そして康一。

 一時は命を落としかけた康一、承太郎、ジョルナの三名は、ムカデ屋から康一の緊急
救急コールを受けて駆け付けた仗助と億泰に助けられ、なんとか一命を取り留めた。

 承太郎と康一は『クレイジーダイヤモンド』のおかげで意識を取り戻したが、ジョル
ナは未だに目覚めていない。吉良を追跡していた間も横抱きにしている仗助へ、くたり
と身体を預けたまま身じろぎ一つせず、今もそのままだ。

「治したに決まってんだろー億泰〜〜〜。……まだちょっと気絶してるんだよ。
 承太郎さんをも吹き飛ばしたスタンドで吹っ飛ばされちまったんだからなッ。
 承太郎さん……あんま無理させないでやってくださいよ。」

 腕の中、自身の胸元に頭を凭れるジョルナを見て呟く。可憐な顔を一房、真っ直ぐな
黒髪が隠し、儚げな彼女をより一層儚くしているようだった。この少女を、仗助はあと
少しで喪おうとしていたのだ。空恐ろしくってたまらなかった。

「こんな小せーのに、あんなボロボロになってよォ〜〜〜。
 ジョルナはまだ13才の女の子なんだぜ?」

「そうだよね……ぼくを助けてくれたけど、とても恐ろしかったと思うよ」

 大の大人に引っ掴まれて、自分の姉なら泣き叫んでいたんじゃあないか?と、康一は
つい先程の惨劇に身震いした。

「(本当は男の自分が守らなくっちゃあいけなかったのに)」

 『クレイジーダイヤモンド』で怪我が治っても、爆発の恐怖は癒えないだろう。でき
うる限りの善戦はしたが、後悔の残る戦いだった。

「なー 取り敢えずここに寝かそうぜ」

「おっ……気が利くじゃんかよォ〜〜〜億泰」

 吉良と辻彩、そして身元不明の被害者が揉み合ったと思われる痕跡。それから『キラ
ークイーン』の爆破……と荒れた店内に、比較的綺麗なまま残った寝台へジョルナをそ
っと横たえる仗助。振り返って店内をぐるりと見回したが、酷い有様である。

 彼らは吉良を追い詰めたはずが、犠牲者を二人増やしてしまった。康一が暴いた
『吉良吉影』という男は今や存在せず、代わりに得た手がかりは『背格好の似た男に成
りすましている』それだけだ。

「……だめだな SPW財団に連絡を入れてから 念のため調べてみたが、殊勝なこと
 に被害者の男は虫歯一つなく……歯の治療痕から身元を割り出すのは不可能だ。
 指紋も……掌紋も、網膜も取り替えられている……(前科や出国した経験がなけりゃ
 あ、あっても意味ないがな)持ち物もそっくりそのまま交換していきやがったし、
 近辺に防犯カメラの類も無し……。くそったれだが……土壇場でも大胆かつ冷静って
 わけだぜ……」

「それじゃー誰に成り代わったのか 結局分からねェーッて ことッスよね……」

「……そうだな。…………だが…………ジョルナが気がつけば……分かるかもな」

「被害者の時間を『戻す』わけッスね!  あー……でも目覚めるまでそっとしといて
 やってくださいよ? 死体と同じ空間で寝かすっつーのも気味悪ィッスけど……。
 …………でも目が覚めたら 死体見てまた気絶しちゃうかも…………」

 身振り手振り表情も忙しい仗助。彼に祖父ジョセフの血を感じながら、承太郎はつい
鼻で笑って、当時を思い起こす。

「フ…………流石にそれはねーな……おまえはジョルナを キャーキャー喚く取り巻き
 の女共と同じように見てるかもしれねえが……そいつはもっとガキのころ エジプト
 の館で、DIOの食いカスの死体や ゾンビに囲まれて生活してたんだぜ」

 後頭部に女性の顔をつけた小男―通称ヌケサク―や、DIOが実験的に別の生き物か
ら生き物へ取って付けたお手製のキメラ……餌の女性達の遺体……そんなものがゴロゴ
ロしてる館など世界のどこを探しても他に見つけられないだろう。吸血鬼が主人のホラ
ーハウス。それがジョルナの生家だ。

「えッ……でででもッスねェ〜〜〜だからって怖くないってわけじゃーねェ〜〜〜ッス
 よッ!(……多分だけど)」

 確かに死体と生活してたにせよ、死体好きでもなければ虫も殺せない性格なのは承太
郎も承知していた。人を食い物か玩具のようしか思っていない吸血鬼の父―DIO―の
習性も特徴も、彼女は受け継いでいない。

「……おれに突っかかるのは構わねえが……これでもジョルナが寝ションベンたれてる
 頃から知ってるんだぜ 老婆心の一つも ないってわけじゃあねえぜ……」

 つまり現状彼女を《心配してないなんてことはない》と言いたいのか。はっきりして
るのか遠回しなのか、いまいち器用貧乏な男だ。

「(寝ションベンて……もーうちょっとこー……言い方ってもんがよォ―――……)」

 空条邸で預かっていたのは3才過ぎの頃なので、そりゃあおねしょのひとつも有った
かもしれない。しかし何も成長した彼女を尻目に少年達へ言うことではない。

「んん……」

 そんなやり取りを知ってか知らずか、ジョルナが寝台の上で身じろぎして漸く目を開けた。

「ジョルナちゃん! ……承太郎さん、億泰くん、仗助くん!
 ジョルナちゃんが目覚めたよ!」

「お……やっとッスか。心配したんだぜージョルナ〜〜〜」

「ん……私……どうしたの……? ここは……シンデレラ?」

「ああ……おまえは殺人鬼『吉良吉影』に攻撃され……今の今まで 寝てたんだぜ」

「『吉良吉影』……」

「おれと億泰が駆けつけ時には全員ぶっ倒れててよォ〜〜〜。吉良の野郎も取り逃しち
 まったが、おまえの怪我は『クレイジーダイヤモンド』で治ってるから安心しろよ。
 ……あの野郎はよォ〜〜〜おれが絶対に引きずり出してとっちめてやるからなァ〜〜ッ」

 吉良が辻彩を殺害したことや『シンデレラ』を逃走に使ったことなど、伝えたい事は
山程あったが、状況説明もそこそこにさっそく承太郎がきりだす。

「……こいつを見てくれないか。おまえの『グランド・マスター』で 取り替えられた
 パーツが返って来れば……野郎を見つけるのは容易……かもしれないぜ」

 示された先には鏡台に倒れ伏す半裸の男。寝台を向いた顔はプラモのパーツを取り外
したように穴が空き、下の筋肉組織や歯列が剥き出しでジョルナを見ていた。奇妙な顔
だが、グロテスクかというと反面、綺麗すぎる仕事にさすがスタンドと言わざるをえない。

「……申し訳ないけど 恐らく……無駄だわ。この人の時間を『戻し』てもパーツを持
 ってる吉良が射程外に居るんじゃあパーツは『戻って来ない』。まだ近くに居るって
 んなら試す価値はあるだろうけど……私の『グランド・マスター』は一度戻した時間
 を進めて《やっぱりもう一度やり直します》ってことは出来ないのよ」

 というのは嘘で、パーツが揃っていなくても『戻せる』のが『グランド・マスター』だ。
『グランド・マスター』の『戻し』ているのは時間。例え削り取り、飲み込んた対象が
何処かへ消えてしまう『ザ・ハンド』や『クリーム』のようなスタンドが相手でも、真
実障害にはならない。

 しかし教えられない。

 初めに能力を質された時の主張を変えるのは自傷行為だ。『ヘブンズ・ドアー』で暴
かれていたとしても姿勢は崩せない。殺人鬼に手を貸すようで心苦しいが『グランド・
マスター』は使えない。

 そういった内情など知らないはずの吉良だが、切り落とした左手が『クレイジーダイ
ヤモンド』で『治って』シンデレラにないのは、図ったように完璧な逃走になった。

「……それでもやる?」

「……その場合……どうなるんだ」

「程度によるけど……お腹の致命傷が直って綺麗になるだけかも…………
 遺体が歩いたりはしないし」

「……おれのじいちゃんみてーなもんスね 傷は治ったけど……死んじまった」

「……では遺体はSPW財団に任せるしか無いな……。職員が来たら この運転免許に
 書かれた住所までタクシーで向かう。ジョルナ……おまえはじじいのところに 戻ってろ」

「うん……気をつけてね」


 程なくしてエステ・シンデレラをSPW財団員に預けると、億泰、康一、仗助、承太
郎の四名は、ジョルナをホテルへ届けるタクシーに押し込んで、同じ方向の別荘地帯へ
と別のタクシーで向かって行った。




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