「ボクは運命を塗り替えていく」

□「ボクは運命を塗り替えていく」
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 理由とか、何てことはない。
 ボクは、秀兄に、恋をしてしまったんだ――。


 
 幼い頃から、秀兄とずっと一緒に居れた記憶がない。歳も離れていたし、家には殆ど顔も出してくれなかったから。でも、秀兄の獲物を捕らえて放さないような、あの鋭い眼差しと、ボクにしか分からない秀兄の『ニオイ』があって、自分で言うのもなんだが、近くに秀兄が居れば、身を隠しててもすぐに分かってしまう。この特殊センサーのような特技はきっと、ボクが物心ついた頃から、手の届かない憧れの存在である秀兄に、無意識に特別な感情を抱いてしまっていたからだろう。今なら、そう冷静に自分を客観視できる。

 ・・・・・・あの射殺事件の後、一瞬は頭を鈍器で殴られたような、立ち上がれない衝撃がボクに走ったけれど、すぐに思い直した。「秀兄がそう簡単に殺られるはずがない」って。だから『彼』を見つけた時は、体中にビリビリと電気が走った。――そう、その時、ボクは思いついてしまったんだ。


ボクはモゾモゾしながら、工藤家のチャイムを鳴らした。
「はい、どちら様でしょう?」
「夜中にすみません! 実はお腹壊しちゃって・・・・・・でも近くにトイレも無いし、ちょっとトイレ貸してくれませんか!?」
「はぁ・・・・・・どうぞ」
 インターホンから聞こえてきた、爽やかな声の持ち主である彼は、やがて洋式のアンティークなドアを開け、ボクの前に姿を現した。

「あれ? 沖矢、さん・・・・・・でしたっけ? 何でここに・・・・・・」
「君こそ。確かコナン君とよく一緒に居る・・・・・・」
「はい、世良真純ですっ。あ、ほら、毛利のおっさん所の蘭とクラスメイトで・・・・・・あ、痛たたたっ」
 ボクは沖矢昴にはにかんだ笑顔を見せながら、腹を押さえて座り込んだ。
「君、大丈夫かい?」
 心配そうに手を伸ばしてきた沖矢の手を、ボクは勢いよく掴んだ。
「やばい・・・・・・でも動けない」
「取りあえずほら」
 沖矢は、軽々とボクを抱っこし、トイレまで運んでくれた。ボクはトイレのドアを勢いよく閉め、「ちょっと、あっち行ってろっ」と彼を突っぱねた。ドア越しに少しの笑い声が聞こえたが、やがてそれはどんどん小さくなっていった。


 しばらくして、ボクが明かりの付いた部屋に歩いていくと、豪華なシャンデリアに照らされた、座り心地の良さそうなソファーで、沖矢が静かにバーボンを傾けていた。
「すげーデカいリビングだな」
「おや、お腹の痛みはもう治まったのかな?」
 口角を上げて微笑む沖矢の顔が、一瞬ボクの目に焼き付いた。無性に、ひどく、喉が渇く。
「沖矢さん、ボク喉が渇いた」
「紅茶を淹れようか? それを飲んだら大人しく帰るんだよ」
 沖矢はグラスを置き、立ち上がる。そして優しくボクの両肩に手を置き、客人向けの大きなソファーにボクを座らせ、自分はキッチンへと足を運んでいった。


 テレビも付いていない部屋で、時計の針と紅茶を淹れる音だけが聞こえている。静かな時間が、ゆっくりと過ぎていく。
「ねぇ、何で沖矢さんは、この『工藤』って家に住んでんの?」
「色々あってね。居候させてもらっているんだよ」
「ねぇ、じゃあ彼女は居るの? 大学院生なんだろ?」
「よく知っているね」
「コナン君が言ってたから」
「そう・・・・・・」
 沖矢は話しながら、優しくティーカップを机に置き、一人掛けのソファーに腰掛けて、再びバーボンを飲み始めた。
「で、彼女は居るの?」
「君は質問が多い子だな。子どもに話す事でもないだろう?」
 沖矢は笑顔でボクを窘める。でも、ボクは引き下がらない。
「ボクさ・・・・・・ずっと前から好きな人が居るんだ」
「もしかして、推理上手な私に恋愛相談を持ちかけているのかな? 悪いけど生憎そういう事には疎くてね。そういうことは、蘭さんや友達に聞いてくれないかな?」
「ボク、沖矢さんが好きみたいなんだ」
「そういえば、論文の締め切りが明日なんだ。悪いが紅茶を飲んだら大人しく帰ってくれないかな」
 沖矢は真顔で立ち上がる。ボクは思わず彼の腕を掴み、制止した。机越しだったから、グラスとティーカップがゴトッと倒れ、バーボンと紅茶が交じり合って、机を茶色に侵食していく。
「・・・・・・腕を離してくれないか?」
 黙ったまま、ボクは沖矢の手を離さない。部屋には、時計の針の音だけがこだましていた。
「世良君、家まで送っていくから、さ・・・・・・!」
 ボクをなだめようとした沖矢の顔が、一瞬歪んだ。そして、ゆっくりとソファーに倒れていく。
「何を・・・・・・っ」
 ボクはその様子を、スローモーションで見ているようだった。ボクは右手に隠し持っていた注射器を、その場に捨てた。そして、動けなくなった沖矢の首元に手を置き、勢いよく『仮面』を剥いだ。そして、ようやくボクの愛しい顔が目の前に現れた。


「やっと逢えた・・・・・・秀兄」
 ボクは高揚して思わず笑みが溢れた。そして、秀兄の髪の毛を愛しく掴みながら、頬や首元にキスを落とし、こじ開けた口に舌を入れ、涎がだらだらと垂れるほど濃厚なディープキスをした。そんなボクを見つめる秀兄の瞳は、いつもの冷静さを失い、絶望しているようにも見えたが、もう、そんなこと気にならなかった。
「ま、すみ・・・・・・」
 力の入らない身体から、秀兄は必死に声を絞り出し、ボクを制止しようとしていた。でもまだ声が違うのが嫌で、秀兄のハイネックに隠れた変声機のスイッチをオフにした。
「やめろ・・・・・・。お前なぜ俺が・・・・・・」
 ボクは答えない。秀兄の上着をめくり、鍛えられた美しい上半身を舐め回しながら、ベルトに手をかけ、ぎこちないながらも着実に秀兄のソレを手で探っていく。ようやく見つけた愛しのソレは、まだ下を向いたままだった。ボクは少しむっとなって、勢いよく手で掻いたり、舌でグチュグチュと舐めたり頬ばったりした。
「あっ・・・・・・くっ・・・・・・」
 少しアツくなってしまって、力を入れすぎたのか、秀兄の顔が一瞬苦悶の表情に変わったが、やがてソレが堅く天井を見上げたので、ちょっと嬉しくなった。
 ボクはやっと自分の下半身を露わにし、秀兄に跨がった。
「やめ、ろ・・・・・・真純っ・・・・・・!」
 顔面蒼白の秀兄が目に映った。ボクは、秀兄が目の前に居るという事実だけでイケそうだった。そして勢いよく、ボクの膣に秀兄のソレを招いた。
 グチュッと卑猥な音が、部屋中にこだまする。
「うっ・・・・・・あぁっ・・・・・・」
 腰を揺らしながら、秀兄の喘ぎ声を聞く。
「んんっ・・・・・・んっ」
 それだけでは我慢できなくなって、再びディープキスの雨も降らせた。薬が効いて身体の自由も、自制心も効かない様子の秀兄は、もう限界が近いようだ。
「抜け・・・・・・ますみ、や、めろ・・・・・・んんっ!」
 ボクは更に激しく秀兄を攻めた。
「秀兄っ、どんなに変装してもっ、ボクにはバレバレだよっ! 秀兄のニオイ、ボクには誤魔化せないからねっ!」
「うっ・・・・・・!」
 やがて、ボクの中に、秀兄の愛しい物が放出されていった。
 ボクは、最後の一匹まで、逃さず子宮に搾り取っていく。


「秀兄・・・・・・ボクをもう、ひとりぼっちにしないでね。秀兄はボクの物なんだから。世界中どこに逃げても捕まえてあげる」
 ボクはむさぼるように、再び秀兄にキスを落とした。
 秀兄は、無表情のまま、美しい瞳から雫を流していた。

 ――きっと、嬉しいんだ。
 ボクは、その酸っぱい雫を舐めた。

                                       了

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