◆短編小説◆

□桜の季節
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「それ、プロモーションだよね。本当は全然反省なんかしてないんでしょう」
 その言葉に私はざらりとした感触を覚えながら反論を試みた。
「そんなことは……」
「嘘だね。だってほんとに反省してたら態度に出るでしょう。口では謝ってるけど、平然としてるんだもん。ね」
 友人は畳みかけてくる。
「そうかもしれない……」
 ぼんやりとそう呟く。
 私には「反省」という感情がわからない。後悔することと反省することの違いが、「反省しろ」と言われたときに周囲が何を求めているのかがわからない。
「すまないとは思ってるんだけどなあ」
 後悔はしている。しかし昔、反省しなければならないことについて何でも激しく後悔してみせていたら周囲に嫌われたことがあったので、それ以来、後悔してもなるべく表に出さないようにしてきた。
「嘘」
 それを嘘だと言われるのは何というか、困る。
「嘘じゃないよ」
「言葉じゃなくて、態度で見せたら?」
「ああ……ごめんね」
 謝ったものの、友人は私を無視して行ってしまった。

 ではここで、何が友人を怒らせたのか振り返ろう。
 と思ったのだが、何が友人を怒らせたのか、それもわからないのだ。
 私が日頃から頑張る頑張ると言って実際頑張れていないのがよくなかったのだろうか。授業を突然休んだり、挨拶を忘れたり、レポートの締め切りにギリギリ間に合わなかったりする……「だらしない」ところが。
「はあ……」
 夜早く寝ても、朝起きられない。締め切りが重なると、どれか一つに集中してしまって間に合わない。もっと頑張らなければと思っているし、自ら周囲に言ってもいるのだが、失敗してしまう。
 失敗が続くと諦めた気持ちになって、ずるずる失敗を重ねてしまう。
 そういうところが、たぶん彼女を怒らせているのだろう。
 突然口をきいてくれなくなったことも何度かあって、そのたびに謝って関係修復に努めている。
 私がいけないのだ。もっと頑張らなければいけないのだ。
 そのためには、友人に許してもらうところから始めなければ。
 首からかけていた携帯音楽プレーヤーが、ざりざりと音を立てる。
 こんな音を出すことは今までなかった。このプレーヤーは高校に入った時から毎日使ってきたもので、荒い扱いもしていたし、もう寿命かな。
 などと考えていると、
 がすり、と。
 何か弾力のあるものを踏んだ感触がした。
「何……?」
 おそるおそる下を向くと、落ちていたのは人だった。
「うわっごめんなさい」
 慌てて足をどける。反応はない。
 うつ伏せで倒れているその人は大柄で、背中にコウモリの羽根、頭に角のような装飾、そして肌が硬質だった。
 今は春だ。ハロウィンではない。
「あの……」
 肩の辺りをつついてみる。温かい。生きてはいるようだ。
「あの!」
 私はその人の身体を揺さぶった。
「ううん」
 反応があった。
「気がつかれましたか?」
「ここは……俺は……」
 ゆっくりと身を起こしたその人の顔は、竜だった。つまり、この人は竜人だ。
 普段の私であれば、こんなファンタジックな存在が現実にいたんだなどと思いテンションが上がると予想できるのだが、今回は何かが違った。
「君が助けてくれたのかい? ありがとう」
 その人の体表のうろこ、羽根、角はひどくくすんだ様子なのだが瞳だけが変にうるんでおり、どことなく粗末に扱われた犬を思わせる。それがなぜか、私を妙に苛立たせた。
「いえ……」
 竜人はヒトではない。ヒトの中に入れば避けられ、怖がられる存在だろう。そんな風にいつも苦労してきたであろう存在のことを、悪く思ってはいけない。なにより、初対面の人を見た目で判断するなんて恥ずべきことだ。そう思って、苛立ちを振り払おうとする。
「実は、人間に擬態できなくなってさ。仲間に迷惑がかかるからって集落を追い出されたんだよ」
「へえ……」
「どこにも行くあてはないし、昼間は身を隠して夜移動してたんだけど、食料が尽きちゃってさ」

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