文豪の恋模様【短編】
□愛情表現【太中】*
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今、猛烈に困っている。家に帰ったら青鯖が当たり前のようにソファーに座って俺の帰りを待っていた。
「中也、これ着ない?」
太宰の手には白いレースがあしらわれたエプロン。勿論着たくない。然し断ったらどうなるかを俺は知っている。だが、それでも厭なものは厭だ。
「断る。他の奴にでも着せとけ」
「えー、私は中也に着てほしいの。ね? いいでしょう?」
もう一回エプロンを見る。俺には似合わないような可愛さ溢れるもの。首領がエリス嬢に服を着せようとするときに持っている服とよく似ていた。
「頼むよ、少しでいいから」
太宰はそう云って俺の手を掴む。其の真剣な眼差しに呆れ乍らも小さく頷いた。
「やったあ。中也って単純だね!」
「……着ねぇぞ」
「ああごめんって! もう云わないから!」
エプロンを渡され、その場で着ようとすると太宰に止められた。なんだ? もしかしてやめる気になったのかと期待する。然し相手は太宰。そんなわけなかった。
「中也、普通は裸エプロンでしょ。なにしてるの?」
太宰は俺の腕を掴み、逃げようとする俺を壁に押し付けた。
「着るって云ったのは中也だからね?」
ああ、嵌められたと思うには遅すぎた。あの太宰が普通にエプロンを着せるわけがないと少しでもいいから疑うべきだった。