A tale of Erebor

□四章、トーリンという男
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追い立てられるように切り立った山へ入った一行は、足場がほとんどない状態で尚且つ雨に降られていた。バーリンを先頭に進む彼らだったが、既に疲労はピークに達していた。
「しっかり!下を見ちゃだめよ、ビルボ」
ネルファンディアは足取りが1番不安げなビルボの隣でそうアドバイスした。丁度その時だった。突然上から落石があり、彼らは危うく崖から落ちそうになった。トーリンは無意識に横にいたネルファンディアの手を掴んだ。
「落ちるなよ。」
「分かってます、死にたくないから」
とは返したものの、彼女は渡り切る前に落石でつぶされるか足を滑らせて落ちてしまうかのどちらかだろうなと思った。
彼らが道をいそごうとすると、また落石があった。それだけではない。なんと足場が動き始めたのだ。バーリンが叫んだ。
「これは足場ではありません!岩の巨人です!」
「伝説は本当だったのか……」
「ファンゴルンの森のエントとそう変わり映えしないわね」
トーリンたちが歩いていたのは巨人の膝で、右足の方に乗っていたフィーリを含むドワーフたちと一行は分断されてしまった。巨人は一人だけではなく三人おり、それぞれがいがみ合っている最中だった。トーリンは普通の岩壁を見つけると、タイミングを見計らって走って飛び移ることをひらめいた。
「飛べるか、ネルファンディア」
「……距離にもよります」
彼女は飛び移る方の足場を見やり、ため息をつくと杖を背中に差し、両手を空けた。
少し待っていると、その時がやってきた。トーリンを始め、多くのドワーフが飛び移る中、ネルファンディアはビルボを先に行かせたので最後になった。
「飛べ!!!」
向こうでトーリンが手を伸ばしているのを見た彼女は、彼に命を預ける思いで跳躍した。その跳躍力はトーリンも驚くもので、手ではなくネルファンディアの体が彼の腕の中に着地した。彼女が飛んだ直後に、先ほどまで足場にしていた巨人は崖の下に落ちていった。分かれていた仲間も合流し、歩きだそうと足を早めたが、それはビルボの叫び声で止まった。
「うわっ!!!」
「ビルボ!」
足を滑らせたビルボは思ったよりも重く、足場も悪かったので引き上げようにもドワーリンの力では足りなかった。すると、ネルファンディアの横にいたトーリンが崖からぶら下がり、下から彼を持ち上げて助けた。だが、今度はトーリンが落ちそうになる。誰もが諦めた瞬間だった。不意に自分の腕を掴む白い手が彼の目に飛び込んできた。か細く、簡単に折れてしまいそうなその腕からは想像出来ない力で彼は上に引き上げられた。
何とか崖から這い上がったトーリンの目に最初に映ったのは、雨に打たれてすっかりびしょぬれになったネルファンディアだった。彼女が彼を一人で引き上げたのだ。
「一体どこからそんな力が……」
「私にも分からないけど、咄嗟に助けなきゃって思ったの」
「……そうか、礼を言う」
ぶっきらぼうな返事を返したトーリンだったが、そんな彼女を内心では感心していた。
トーリンは立ち上がると一変してビルボを睨みつけた。
「この者には大体すべてが不可能なのだ!なんと足でまといな……」
彼はそのままビルボに背を向けると、今日の宿を探し始めた。ネルファンディアはトーリンの厳しい一面を目の当たりにし、辛そうなビルボに少し同情するのだった。
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