A tale of Erebor

□三章、時の拘束
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───ここはどこ。今日は何日。
ネルファンディアは虚ろな眼差しでトーリンの手を掴んだ。
「これ以上進んではだめ………迷うだけだわ」
「迷ったはずがない。そのうちつく」
彼女は幼い頃よくここに来たため、一行が完全に道から逸れていることを知っていた。皆の不安を煽るわけにもいかないため、彼女は声を潜めて話を続けた。
「道から完全に逸れてるわ」
「知っている」
「一体いつ間違えたのかしら…」
「…………たぶん、私が間違えた」
ネルファンディアのぼおっとする頭が一気に冴える。
───トーリンが?道を間違える?
「嘘でしょ?」
「………そのだな。方向感覚は元から苦手で…」
ネルファンディアは呆れたと言わんばかりの声でトーリンに尋ねた。
「今までこんなことは?」
「最近はない。いや……数ヶ月前、旅に出かける前にホビット庄でビルボの家に着くまでに2度迷った。」
彼女は流石に大きなため息をつくことしか出来なかった。完全無欠のように見えるこのドワーフの王子が方向音痴など、一体だれが想像できるだろうか。トーリンは気まずそうに地面を見ることしか出来なかった。
「私、見てくる。たぶん不快じゃない方向が道なんだと思う」
「な………はぐれたらどうするんだ!?」
彼は行かないで欲しいと言うようにネルファンディアの手を掴んだ。この手を振りほどくほど彼女は酷なことは知らなかった。
「大丈夫だよ。………これをあなたに預けるわ」
ネルファンディアはトーリンに首にかけているアメシストで出来たネックレスを手渡した。
「これがあれば、闇の森のエルフたちに出会っても私の知り合いだと言えば分かってくれるはずだから」
「………気を付けて行くがいい」
トーリンは渋々ネックレスを首にかけると、彼女の手を離した。立ち上がったネルファンディアはまるでトーリンが幻影でも見ていたかのように、跡形もなく森の奥深くに消えていった。

ネルファンディアは焦っていた。
───早くトーリンたちに道を見つけてあげないと……この森は危険だわ
自分の勘を信じて崖も斜面も問わず上に上に進み続けていると、ようやく空気が重苦しくない場所に上がった。そして、更に斜面を上がるとすっかり土だらけになった彼女の目の前にエルフの道が現れた。彼女は疲労感も忘れて歓喜の声を上げた。
「着いたわ!帰ってきた……」
しかし道は見つかったが、肝心のドワーフたちをどうやってここまで連れてくるかが問題だった。彼女は道の中央に座りながら杖にもたれかかって考えた。すると、目の前に一人の金髪の弓を構えたエルフが現れた。彼は怪訝そうな表情でネルファンディアを見ると、数分置いてあっと叫んだ。
「ネルファンディアか?」
「あ…………レゴラス!」
「ひどい顔だから一瞬誰か分からなかったよ」
ネルファンディアは幼馴染のエルフの王子にため息をつくと、疲れ果てた動きで立ち上がった。
「相変わらずその失礼な口は治ってないのね」
「君こそ、変わってない」
レゴラスはそう言っているが、なにやら警戒しているようで弓に手をかけたままついてくるようにとネルファンディアに指示した。彼は何故普段と違う格好でここを訪れたのかと尋ねた。もちろん、彼女は返事に困った。
「ええと………どうしてもここを通らなきゃいけない人がいるんだけど、同行しているうちに道に迷ったの。」
「ふぅん………誰だい、その人は」
「え………」
レゴラスはこの慣れ親しんだ幼馴染が何か隠していることをすぐに見抜いた。そしてその理由はすぐに判明した。
「レゴラス様!蜘蛛たちが暴れていたところ、駆除しました。それと……」
「何だ」
「ドワーフたちがいます」
「なんだと?」
一人の護衛のエルフがレゴラスにそう報告した。ネルファンディアはすぐにでもトーリンの安否を確かめたいと思い、慌ててレゴラスたちを追った。
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