A tale of Erebor

□三章、時の拘束
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二人が牢へ向かうのをスランドゥイルは興味深そうに見ていた。限りある命であるドワーフの王子がエルフとイスタリの混血の娘を愛するなど、前代未聞なことだ。彼はトーリンと先に話を済ませた時に彼の想いに気づいていた。いや、悟らずにはいられなかった。
───あの堅物のトーリンをあそこまで落すとは……やはりサルマンの娘は隅には置けぬな。
幼い頃からのトーリンを噂や本人を目にして知っているスランドゥイルは(これでもかつてはドワーフの王でありトーリンの祖父であるスロール王の治世から国交が盛んだった)、彼がどんな女性にも関心を持つことがほとんどないことも耳にしていた。事実、エレボールにある莫大な財を目当てに近づくどんな美しいエルフや人間の女性でも彼の心を射止めることは出来なかったのだから。
───そのトーリンが、あれほどむきになるとは……面白いものよ
それは、スランドゥイルがネルファンディアのことを嘲笑したときだった。
『彼女は無事なのだろうな!?』
『気にすることなど無いはずだが?トーリン』
『答えろ、スランドゥイル。彼女は無事なのか!?』
『無事だとも。少なくとも、そなたよりは余程聞き分けの良い子だからな』
トーリンは両脇を抑えられていたが、噛み付くような勢いでスランドゥイルへ身を乗り出した。
『貴様…………!!!財宝を協力のダシにしておきつつ、姫にまで何をするつもりだ!』
『サルマンに返す。もう既に使者は送った』
『なっ…………』
トーリンは自分よりもずっと背が高いスランドゥイルをありったけの憎しみを込めて睨みつけ、ドワーフ語で言い放った。
『"竜の炎に焼かれて死ね!"私と彼女の間を引き裂く奴には死が訪れようぞ!』
スランドゥイルは自分よりも背が低く、愚かな王子にそう言われて図らずとも少し恐れたことをすまし顔に隠しながら、衛兵にトーリンを連れていかせた。
『スロールには警告した。貪欲は破滅を招くと。だが、真の愛の足元にも及ばぬ愛に執着する今のそなたは、スロール王には比べ物にならぬほどの愚かさよ。………よく似て頑固なことだ』
『私の愛が真ではないと言いきれるのか?無理であろう!』
トーリンは小さな体の中で怒りを燃やした。今もし竜の姿に変身できるのならば、必ず目の前のエルフ王を炭化させてやると彼はこぶしを握りしめた。彼の肩が震えるのを見たスランドゥイルは、あごで指示をした。それを合図にトーリンが衛兵に引きずられていく。
『身の朽ち果てるまで、牢にいるがいい。エルフには100年など刹那のものよ。………そなたの愛する者はそういう世界で生きる定めであること、身をもって知るがいい』
『私は死など恐れはせぬ』

「かぎりある死など恐れぬ、か………」
スランドゥイルはネルファンディアが渡したというネックレスを灯りにかざして見ながら、トーリンが最後に吐いた言葉を反芻し続けるのだった。
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