A tale of Erebor

□六章、エレボールの謎
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近くの港に寄ったバルドは、何やら漁師と話を始めた。ネルファンディアはタペストリーの入った箱に収まっていたため、全くその様子が見えなかったが、トーリンたちは樽の隙間から見える様子を訝しげに見ていた。
「こっちを指さしたぞ」
「嫌な予感がする」
一行がこれから起きることを想像して身震いした時だった。頭上から魚がだばだばと音を立てながら落ちてきた。魚はあっという間に彼らの頭を隠し、樽いっぱいに詰め込まれた。そして、バルドの船はそのままエスガロスの中心港へ向かって出航した。

何度か大きな揺れなどがあったが、ネルファンディアは何とかこらえて箱の中でタペストリーに巻かれながら目を閉じていた。ひときわ大きく傾いたあと、何かの上に置かれた箱は誰かの手によって開けられた。
「わぁ……綺麗なタペストリーね」
「だろう?」
バルドの声がしたと思うと、次の瞬間巻かれていたタペストリーが勢いよく放り出された。驚いたのはネルファンディアではなく、バルドの上の娘のシグリッドの方だった。
「お父さん!!!中から綺麗な女の人が出てきたけど!!?」
「あなたはエルフなの?」
床に勢いよく頭をぶつけたネルファンディアは頭を抑えながら、下の娘のティルダの問に対して首を横に振った。
「エルフじゃないわよ………母はエルフだけどね」
「そうなんだ!うちの家はすごいね!綺麗なお姉さんと幸運の小人さんがいるんだから」
「幸運の小人さん?」
「そう!おトイレから出てきたの」
ネルファンディアは後ろを振り返った。そこには不機嫌そうなトーリンたちが立っていた。彼はくしゃみを一つすると、罰が悪そうに下を向いて頷いた。
「あら、あなたたち………うふふふ」
「笑い事ではないぞ。プライドが許さぬ」
「ご利益がありそうな顔してるわよ、トーリン。うふふ」
楽しそうに笑うネルファンディアの姿とトーリンの口調を見ていたバルドは、二人の関係がただの同行者ではないことに気づいていた。だが、火やタオルの用意をしながら彼はある言葉に思考を奪われた。
────トーリン。
親族を尋ねるにしては怪しげな一行に、バルドは元から不信感を抱いていたが、ひときわ威厳と異様な雰囲気を醸し出している男の聞き覚えのある名前に引っかかっていた。彼は思い立ったように家を出ていくと、その違和感の正体を探りに行った。

市場に行くと、彼は真っ先にタペストリー屋へ行き、店主にあることを尋ねた。
「おい!まだあの家系図のやつは残ってるか!?」
「家系図?ああ、あのエレボールのドワーフが売りに出した趣味の悪い家系図のタペストリーな。あるさ、そこだよ」
店主が指さした方向に彼は歩み寄ると、タペストリーを探し出して家系図を指で辿った。
「ドゥリンの家系ここに記さん。────スロール、スライン…………」
家系図は、最後のある人物で締めくくられていた。
「────トーリン…………」
バルドははっと我に帰り、思い出した。何かの鳥がエレボールに戻るのを見たという人がいたことを。また、それがエレボール奪還の吉兆であると。そして、ドゥリンの陽という日がもうすぐであることも。
こんな偶然にトーリンという男が訪ねてくることがあるだろうか?
彼ははなれ山の方角を見て、目を細めた。あそこには邪竜がまだ潜んでいると言われている。今は形を潜めているが、彼らが山に入ればきっと起こすことになるだろう。彼はエスガロスやデールの街がどうなったかを父や祖父から聞いて特に細かく知っていた。
───なぜなら、彼はデールの国最後の領主の孫だからだ。
そして、彼の頭の中に現実的な考えが浮かび、帰路を急いだ。
全てはこの旅を中止にさせるためだった。
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