A tale of Erebor

□三章、戦場での再会
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エレボールは既に戦場と化しており、オーク、ドワーフ、エルフ、人間、様々な種族の兵が入り混じっていた。その混乱状態の中からトーリンを探し出すことは用意ではなく、ネルファンディアは馬上から剣と杖を用いて敵を蹴散らす必要があった。
「トーリン!!!トーリン!!!どこにいるの?トーリン!!!!」
するとその声にトーリンの従兄弟のダインが返事をした。
「トーリンを探しているのか!姫君よ!」
「ええ。そうなの。トーリンはどこ!?知っているなら早く教えて」
彼はすきを見て襲ってきたオークをハンマーで叩くと、烏ヶ丘の方を指さした。
「あっちだ。キーリ、フィーリ、ドワーリンも一緒だ」
「嘘………い、いつ向かったの?」
「ついさっきだ。入れ違いだったようだな」
「私………行かなきゃ。手遅れになる前に。」
つくづく自分の運の無さに呆れるネルファンディアは、一刻も早く彼に伝えなければとの一心で出発しようとした。しかし、ダインがそれを慌てて止めた。
「やめとけ!馬じゃ無理だ」
「この子は風の馬よ。………出来るわ、この子なら」
彼女を改めてしっかりと見たダインは、思い出したような声を上げた。
「ああ!あんたがネルファンディア姫か。トーリンが言っていたぞ。故郷を取り戻したが、大切な人を失ってしまった、とな」
「トーリンが……?そんなことを…」
「早く行ってやれ。あいつが待ってるさ」
ネルファンディアの瞳に輝きが戻った。またお互いやり直せる、そう確信した彼女にもう迷いはなかった。ダインに礼を述べると彼女はそのまま烏ヶ丘を目指した。

戦場を抜けた緩衝地帯で1度馬を止めると、ネルファンディアは背後の気配を感じて剣を抜いた。
「わわわ!!何するんですか!僕ですよ、ビルボです!」
そこには肩で息をするビルボが立っていた。ほっとした彼女は剣をしまった。
「ビルボ!!あなたも知らせに来たの?」
「そう!トーリンたちが危ないって。」
「歩いて登るのは大変だわ。…乗りなさい」
「どうも」
彼は馬に乗せてもらうと、ずっと気になっていたことを言った。
「………トーリンはあれからずっと後悔してた。でも、あなたが戻ってきてくれてきっと彼も喜ぶと思います」
「ありがとう、ビルボ。私は本当に、いい友を持ったわ」
そういう優しさに触れるたびに、戻ってきてよかったんだと思える自分が幸せだった。自分の居場所はここなんだと再認識できたネルファンディアは、トーリンに逢いたい一心で馬を走らせた。

トーリンの姿はすぐに見つけられた。誰かを探しているように見える彼も、ネルファンディアのことを心のどこかでずっと探していたのだ。
二人の視線が重なる。
「────トーリン………」
「────ネルファンディア?」
馬から降りたネルファンディアは、彼の反応を伺いながら恐る恐る近寄った。しかし、先に抱きしめたのはいつもは冷静なトーリンの方だった。彼は身長差も構わずネルファンディアに飛びつき、鼻を詰まらせながら思いがけない再会に身を震わせた。
「…………もう、会えないかと思っていた。もう、私のことなど、嫌いになったと………」
「どうしてあなたを嫌いになれましょうか?」
「ああ、ありがとう…………本当に大切にしなければならなかったのは、黄金でも、財宝でも何でもなかった。許して欲しい、それに気づかなった私を」
トーリンはバツが悪そうに今までの過ちに関して謝った。それを聞いたネルファンディアの心にも、謝罪の気持ちが湧いて出た。
「いいのよ、トーリン。私も、ごめんなさい。酷いことも言ったし、離れないって、約束したのに…」
罪悪感に顔を歪める彼女の頭をトーリンは優しく撫でた。
「もう、よい。そなたがこうして帰ってきてくれたことが一番嬉しいのだから」
「トーリン……」
再会の喜びを分かちあったところで、ネルファンディアとビルボは本来の目的を告げた。
「今すぐ戻るんだ。トーリン、罠なんだよ!」
「ありがとう、2人とも。キーリとフィーリはどこだ。すぐに呼び戻さねば!」
彼がそう言って二人を探そうとした時だった。烏ヶ丘から姿を消したはずのアゾグの、あの悪辣な笑い声が響き渡った。足元にはフィーリが横たわっている。
「フィーリ!!今行く!」
「叔父上!逃げてください………!!」
「ドゥリンの血を、俺は絶やす!!こいつが死ねば、次は弟だ!」
「フィーリ!!!!」
アゾグの剣が、フィーリを貫いた。いとも簡単に仲間の死を目の当たりにしたトーリンは、怒りに打ち震えた。自分が殺し損ねた宿敵に、大切な人をこれ以上奪われてたまるかと決意を固めた彼は、剣を抜いてアゾグとの一騎打ちに挑んだ。ネルファンディアは、エレボール遠征のことを知ったときと同じように、彼を引き止めることが出来なかった。その代わり、トーリンが単身戦いに身を投じる前に、ネルファンディアの手を握った。
「………山の下の王となる私には、まだ足りないものがある。何かわかるか?ネルファンディア」
「ええと…………品格かしら」
初めて裂け谷であった時と同じ、おどけた表情をするネルファンディアにトーリンは思わず吹き出してしまった。
「それも足りぬだろうな、まだまだ。」
彼は急に真面目な顔つきになると、跪いてネルファンディアの手のひらにキスをした。
「───なっ………!?」
「ネルファンディア姫よ。こんなところで、それからこんな時に言うことではないが。私と共に、エレボールを支えて欲しい。────ドゥリン第三王朝、トーリン2世の王妃として」
透き通るように白い肌のネルファンディアの頬が一気に紅く染まる。
「フィーリにも見せてやりたかった……あいつが一番トーリンとあなたのことを心配してたんですから」
いつもは無愛想なドワーリンが涙声でそう言った。
戦場でのプロポーズを、その場にいたドワーフの誰もが祝福した。
そして、その祝福の中、彼は最後の戦いに向かった。
「…………無茶はしないでと言いたいところですが、あなたにそれは無理な願いでしたね」
「ああ、そうだな。……蹴りをつけてくる。待っていてくれ」
「もう今度は離れないわ。」
二人の手が離れていく。けれど、今度はもう別れの瞬間ではない。きっとまたすぐに会える。
だから、2人とも離れる時は笑顔だった。
「待ってる。ずっと、ずっと待ってるからだから……」
────必ず、戻ってきて
そう言おうとしたが間を敵に阻まれ、ネルファンディアは戦わざるを得なくなった。しかし、なにも絶望的なことではない。これが終われば二人には望み続けていた平凡が訪れるのだから。
きっとすぐまた会える。その時の二人はそうとしか思っていなかったのだった。

永遠の別れが、二人を分つことなど知らず。

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