A tale of Erebor

□あとがきと次回予告(!?)
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────If more of us valued food and cheer and song above hoarded gold,
it would be a merrier world.


行きて帰りし物語。
これはトールキン教授の作品、ホビットの冒険の別題です。出会いには別れがつきものだと以前に書かせていただいたと思いますが、この物語はまさに出会いと別れ、そして旅の終わりで振り返ってみると全く別のものになっているのです。臆病だった自分は勇気ある者に変わり、広い世界を知る。広い世界を知っていても、新たな価値観を知る。そして、始め苦楽を共にしてきた仲間が、帰りにはもう居ない。
私が映画ホビットをみて完全に涙腺をやられてしまったシーンは、トーリンが死ぬシーンではなく、ビルボがエレボールを旅立つときのシーンで最後に振り返って仲間を見るところでした。明らかに足りない人数と、存在。それが本当にこの世界から消えてしまったことを物語っており、私はこの旅がいかに大きなものだったのかということを改めて知りました。
トーリンは寡黙なように見えて、実は臆病で、本当は誰よりも重い責任を耐えかねる普通の人なのです。もし彼が王子でなかったら、もっと違う人格になっていたのかもしれませんが、彼の威厳と魅力はやはりその運命から逃げない姿でしょう。しかし、逃げずに向き合いすぎた結果、黄金と向き合った時にその誘惑に負けてしまうのです。この小説の本編では書かれていませんが、トーリンはその後様々な失態をおかし、遂にはビルボの信頼さえ失ってしまいます。見かねたドワーリンが忠告するも、聞く耳を持たない彼は荒ぶってしまいます。ところが、いざ自分の今の姿を見た時に彼の中で何かが変わります。
───自分はいったい、何なのか。
このことはトールキン作品の背後に一貫して存在する命題の一つだと私は思います。
トーリンを演じたリチャード・アーミティッジは、黄金の欲に負けてしまう彼もまた本性だと語っています。ですが、そんなもう一人の本性である自分に立ち向かい、乗り越えた先のトーリンは本当に素敵です。

今作では夢小説ということで独自のオリジナル主人公が登場しました。ネルファンディアは堅物で頑固な魔法使いサルマンの愛娘ですが、エルフの母の血を濃く受け継いでいるので、割と柔軟な考えが出来る女性です。それはドワーフたちに出会った時も同じで、その気さくさが受け入れられます。トーリンをときに突き放したりする彼女ですが、それも全て王としての器を兼ね備える彼への愛ゆえ。彼女ははじめ、限りある命の者を愛する上での喪失への覚悟がありませんでした。けれど運命に立ち向かうトーリンの姿をみるうちに、漠然とした恋情が愛に変わり、何があっても彼を愛し抜くことを誓います。様々な夢小説を書きましたが、今までで最も魅力溢れるキャラクターではないかと思うくらいに凛々しく、美しく、そして儚くも芯のある彼女に感情移入して下さったのなら、幸いです。

Twitterやツイキャスの方で、ご意見を伺ったところ、トーリンの結末が違ったら……というお言葉をちらほら見かけましたので、またif小説を書くことがあると思いますが、そのときは宜しくおねがいします。
この物語は一旦ここで終了ですが、引き続き60年後にネルファンディアが指輪戦争に巻き込まれることとなる指輪戦争編(仮題)を執筆したいと思っております。また、5章の最後に出てきたサルマンとネルファンディアの母の話しも、本編の箸休めとして随時更新していこうと思っております。

長くなりましたが、最後に。ここまでみなさん、読んでくださって本当にありがとうございました。私が今まで書いた小説の中で最も長い作品となる予定ですので、これからも長い目でどうか見守ってやってください。そして、ネルファンディアが最後に選ぶ道と、第三紀の終わりを見届けてやってください。
本当にありがとうございました。これからも宜しくおねがいします。



……………I bid you all a very fond farewell
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