A tale of Erebor

□六章、潰えぬ約束
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トーリンたちはややエレボールに近い高台に降ろされた。皆がトーリンを心配して駆け寄る。ネルファンディアは優しく彼の手を握った。
「トーリン、お願い…」
すると、彼の目が開いた。彼はネルファンディアに支えられてゆっくり立ち上がると、高台の北の方角に立って指を指した。
「エレボールだ……」
「あれがエレボール……」
後ろにいたドワーフたちも数10年ぶりに見た故郷の姿に歓喜の声を上げた。それからトーリンは、ビルボに向き直った。
「…足でまといだと言ったはずだ。この旅には向いていないと。」
ビルボはトーリンに帰れと言われるだとうと予測して、本人だけでなく誰もが苦々しい顔をした。だが、予想とは裏腹に、トーリンはビルボを抱きしめた。
「…………私かま間違っていた。済まなかった、ビルボ」
「トーリン……」
14人目の旅の仲間が、正式に認められた瞬間だった。




こうしてエレボールを目前にした一行は、一段と絆を深めて野宿をした。トーリンはぎこちなく、高台で星を眺めるネルファンディアの横に座ると、空と彼女の横顔を交互に見た。彼女はそんなトーリンに気づいており、呆れた顔で彼の目を見た。
「何してるのよ、トーリン。魔法使いでも星は取ってこれないからね」
「知っている。」
二人は無性におかしくなって、笑った。ネルファンディアにとって、トーリンが声を上げて笑っている姿を見るのはこれが初めてだった。トーリンは彼女の小さな手を緊張で震える両手でそっと包み込んだ。彼女の頬が赤くなる。
「………ありがとう、ネルファンディア。そなたは、まことに私の守護者だ」
「いえ………そんな…」
「だが、そなたに守らてばかりでは、私も山の下の王として負けてはいられない。故に…」
トーリンは彼女の目を見て、わずかに微笑み、こう言った。
「───故に、私もそなたを守ろう」
ネルファンディアは、驚いて目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。
「あ!流れ星!」
誰かがそう叫んだ。トーリンとネルファンディアも空を見上げた。流星群が空から地上に落ちてくるように降り注いでいた。彼はネルファンディアに空を見上げながら言った。
「…願いが、叶うそうだ。最後の一つが消え去るまでに願えば」
「そうなんだ。じゃあ、一つお星様にお願いしようかな」

彼女は目を閉じ、願った。
──トーリンが、無事に旅を終えられ、故郷で平穏に暮らせますように。

また、トーリンも願った。
──この旅がどのような形で終わっても、ネルファンディアが無事で居られますように。







二人の願いが、中つ国の夜空に吸い込まれていく。







エレボールまでは、あと少しとなっていた。


















第1部、予期せぬ出会い 終
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