A tale of Erebor

□三章、時の拘束
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「君の同行者は、ドワーフだね」
「………そうね」
レゴラスは道であった時よりも厳しい眼差しでネルファンディアを見た。ドワーフのことを嫌うのはサルマン以上であるレゴラス親子には、今のトーリンたちは邪魔でしかない。彼女は息を飲んで彼のあとをついて行くしかなかった。
エルフたちの元へたどり着くと、トーリンたちが拘束されていた。武器を取られ、無防備な彼らにネルファンディアは近寄って1人ずつ安否を確かめた。彼女は敢えてトーリンを最後に回すと、声をひそめて気遣った。
「トーリン……無事だったのね」
「ビルボが助けてくれた。今頃どこかに潜んでいる。」
「そう………スランドゥイル王と王子のレゴラスを怒らせないって約束して欲しいの。殺されるわ」
トーリンは憎しみのこもった目でレゴラスを睨みつけた。
「奴の何を知っている」
「幼馴染なの。心配しないで。あなたに渡したネックレスを見れば危害は加えられないはずよ」
「どうだかな。エルフの言葉は信用ならん」
「そこでこそこそ何を話しているのですか?ネルファンディア」
レゴラスが見かねて近づいてきたため、ネルファンディアはトーリンから距離を置くしか出来なかった。彼はトーリンを侮蔑たっぷりの目で見ると、彼が持っていた剣を取って眺めた。
「これはオルクリストだな。エルフが鍛えた剣だ。盗人か」
「違うわ」
トーリンが何か言う前にネルファンディアが間に割って入った。
「彼はドゥリンの一族、トーリン・オーケンシールド王子よ。あなたと同じ王子なんだから、少しは敬ったらどうかしら」
「君が連れてくる客人はろくな奴がいないな。君のお父さんも苦手だし、このドワーフの盗人なんて、苦手どころか虫唾が走る」
「この姫を侮辱するのは聞き捨てならん。彼女を侮辱するなら私のことを好きに罵るがよい!」
トーリンが両脇をエルフに抑えられた状態でレゴラスに食ってかかった。彼はトーリンがネルファンディアのことを想っていることにすぐ気づくと、鼻で笑ってこう耳元で囁いた。
「盗人だけではなく、永久に続く命の者を愛する愚か者か」
「貴様に言われたくはない。愚か者はそなたの方だ」
「連れていけ」
凄みのきいた声で言い返すトーリンに、レゴラスは説得の余地なしと見て父王の元へ連れていくことに決めた。彼は一緒に行こうとするネルファンディアを呼び止めると、説明を命じた。だが、彼女は連行されるトーリンの手を離そうとしない。
「トーリン……!」
「ネルファンディア、大丈夫だ。離し難い手だ……」
「早く連れていけ」
2人の手がどんどん離されていく。そしてついに指先が離れた。ネルファンディアは、初めてレゴラスを睨んだ。
「彼もあなたと同じ王子なのよ。何故そんなふうに」
「そうかもしれないな。でも、ドワーフだ」
幼いときはそこまで酷くなかった気がするが、彼女には性格が悪くなったように思えた。特に非社交的な父親の性格が影響して、ドワーフに対する偏見が増している。レゴラスはグローインの持ち物を取り上げると、一瞥した。
「なんだこれは。これは弟か?」
「違う。妻だ。」
「ふぅん。それで、これはゴブリンの息子か?」
グローインはむすっとしているが、なんとか怒りを堪えている。
「……………これは、息子のギムリだ。」
「ああ、そうか。醜いな」
グローインには気の毒だったが、ネルファンディアはまだ盗人と山賊呼ばわりされるトーリンのほうが幾らかましだなとつくづく思うのだった。



スランドゥイルの前にやってきたネルファンディアは、気まずさを覚えた。前々から苦手な相手であったが、特に今は苦手だった。
「…………お久しぶりでございます、闇の森の王、スランドゥイル様。」
「これは……ネルファンディアか。白の賢者様は元気かね?」
「ええ……」
スランドゥイルはネルファンディアを冷めた目で見ると、冷笑した。
「許嫁の件は、気にせずともよい」
彼女は笑って流すことさえ出来なかった。実はレゴラスとネルファンディアはガラドリエルたちの計らいというよりは大人の事情で婚約関係にあった。ただ、当の本人たちがあまりに嫌がったため自然と解消されたということが以前にあったのだ。だが、それを気にするスランドゥイルではなかった。彼が気にするのはトーリンを連れてきたことの方だった。彼はため息混じりにネルファンディアに言った。
「君の同行者のトーリンは、エレボールへ向かうらしいな」
「はい」
「………協力には、もちろん双方の合意が必要だな。それはわかるであろう?」
「……仰る意味がわかりません」
ネルファンディアは既に理解していた。だが、敢えてとぼけるふりをした。彼もそれは分かっているようで、賢しい娘なことだというと、衛兵隊長のタウリエルを呼びつけた。
「タウリエル。彼女をトーリンの牢まで案内してやれ。……目を離すなよ」
「承知しました。ついてきなさい」
「タウリエル。」
何も知らないタウリエルは他の人を扱うようにネルファンディアに口を聞いた。すかさずスランドゥイルが片手を上げて彼女を制止させた。
「……彼女はサルマンとラウエリアルの娘、ネルファンディア。蒼の姫だ」
「────!!これは失礼しました!お許しを」
「謝らなくていいわ……顔を上げて。トーリンのもとへ案内してちょうだい、タウリエル」
彼女はうなだれるタウリエルの肩に手を当てると、優しい表情で許した。
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