bnyr!
□お前なんかに惚れちまう予定なんてなかったのによ
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「天気良くてよかったー!たまには遠回りして帰るのも楽しいね」
だがまあ、案の定断れず、こいつのペースに乗せられてしまう。
俺たちは並んで公園を歩いていた。晴天。大和だったら叫びながら走り出してしまうくらいの青空。
世間話をしながらブラブラと歩を進める。しばらくしたところで俺たちはベンチに腰を下ろした。途中で買った缶ジュースを彼女に手渡す。
「ねえ。ギター弾いてよ」
傍らに置いてあるギターを見つめながら彼女は言う。
「宗介の音、好きなんだよね。真っ直ぐで芯があって心に強く響いてくる」
いつもはライブのときしか人前では弾かない。そんな安売りはしない主義だ。だが、こいつの言葉には不思議と逆らえない。
俺は黙ってギターを構えた。
ワンフレーズ弾き終わってフッと息を吐く。パチパチと隣から拍手が聞こえた。
「…これでいいか」
「うん、満足。ありがと」
満面の笑みに不意打ちをくらう。俺は思わず口元を手で隠し、顔を背けた。
「…宗介、今日楽しかった?」
見ると、さっきまでの笑顔は消え、どこか不安げな表情で聞いてくる。
「ん?…ああ、まあな」
何となく気まずくなって再び目をそらす。しばらくしてから横目で見ると、先程までとは打って変わり、満足げな表情をした彼女と目が合った。
質問の意図が分からず、思わず不審げな目を向けてしまう。
「…なんだよ」
「ううん。作曲煮詰まってたんでしょ?気分転換になったらいいと思って」
ニヤニヤしながら缶ジュースを一気に飲み干す彼女を見て、自分の感情に改めて気づく。
ああ、俺はこいつに惚れているのだと。
「…大和たちに聞いたのか?」
「ううん。てか、今の宗介見てたら誰でも分かるよー」
宗介分かりやすいもんねー。などと彼女は言っているが、誰でも、というのは難しい話だろう。
実際、学校でも俺はいつも通りの不機嫌さだったはずだ。…自分で言うのもなんだが。つまり、俺の現状はこいつだから見抜けたわけで…。
「まったく…」
結局、俺の好みも、考えも、音楽も、こいつは全部分かってるってことか。
「お前みてえなやつに惚れちまうなんてな」
「えっ?なに?」
「なんでもねーよ」
独り言のように呟いて、ベンチから立ち上がると、すっと彼女に手を差し出した。
「ほら、早く行くぞ」
彼女は突然の出来事に驚いたようだったが、すぐに俺の手をとって歩き出す。
「もちろん!次は買い物に付き合ってもらうからね」
「は?お前の買い物なげえから無理だ。俺は早く帰って作曲の続きを」
「あれ?誰のおかげで気分転換できたんでしたっけ?」
…やっぱ前言撤回で。