bnyr!

□お前なんかに惚れちまう予定なんてなかったのによ
2ページ/2ページ


「天気良くてよかったー!たまには遠回りして帰るのも楽しいね」

だがまあ、案の定断れず、こいつのペースに乗せられてしまう。
俺たちは並んで公園を歩いていた。晴天。大和だったら叫びながら走り出してしまうくらいの青空。
世間話をしながらブラブラと歩を進める。しばらくしたところで俺たちはベンチに腰を下ろした。途中で買った缶ジュースを彼女に手渡す。

「ねえ。ギター弾いてよ」

傍らに置いてあるギターを見つめながら彼女は言う。

「宗介の音、好きなんだよね。真っ直ぐで芯があって心に強く響いてくる」

いつもはライブのときしか人前では弾かない。そんな安売りはしない主義だ。だが、こいつの言葉には不思議と逆らえない。
俺は黙ってギターを構えた。
ワンフレーズ弾き終わってフッと息を吐く。パチパチと隣から拍手が聞こえた。

「…これでいいか」
「うん、満足。ありがと」

満面の笑みに不意打ちをくらう。俺は思わず口元を手で隠し、顔を背けた。

「…宗介、今日楽しかった?」

見ると、さっきまでの笑顔は消え、どこか不安げな表情で聞いてくる。

「ん?…ああ、まあな」

何となく気まずくなって再び目をそらす。しばらくしてから横目で見ると、先程までとは打って変わり、満足げな表情をした彼女と目が合った。
質問の意図が分からず、思わず不審げな目を向けてしまう。

「…なんだよ」
「ううん。作曲煮詰まってたんでしょ?気分転換になったらいいと思って」

ニヤニヤしながら缶ジュースを一気に飲み干す彼女を見て、自分の感情に改めて気づく。
ああ、俺はこいつに惚れているのだと。

「…大和たちに聞いたのか?」
「ううん。てか、今の宗介見てたら誰でも分かるよー」

宗介分かりやすいもんねー。などと彼女は言っているが、誰でも、というのは難しい話だろう。
実際、学校でも俺はいつも通りの不機嫌さだったはずだ。…自分で言うのもなんだが。つまり、俺の現状はこいつだから見抜けたわけで…。

「まったく…」

結局、俺の好みも、考えも、音楽も、こいつは全部分かってるってことか。

「お前みてえなやつに惚れちまうなんてな」
「えっ?なに?」
「なんでもねーよ」

独り言のように呟いて、ベンチから立ち上がると、すっと彼女に手を差し出した。

「ほら、早く行くぞ」

彼女は突然の出来事に驚いたようだったが、すぐに俺の手をとって歩き出す。

「もちろん!次は買い物に付き合ってもらうからね」
「は?お前の買い物なげえから無理だ。俺は早く帰って作曲の続きを」
「あれ?誰のおかげで気分転換できたんでしたっけ?」

…やっぱ前言撤回で。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ