夢小説

□第1章
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01.

王都エクバターナより遠く離れた山の中にひっそりと佇む小さな山荘。それが、彼ら3人の住処であった。
周り一帯は山ばかりで、此処以外の民家も店もなく、ただ聞こえるのは木々のざわめき、そして鳥のさえずり。人々の発する音よりも、自然が生み出す音の方が、彼らにとっては馴染み深く感じられた。



少年が起床したのは早朝で、此処に住む者の中で最も朝が早い。
自分の身支度を終えた後、皆の朝食の支度をしなくてはならないからだ。
それに、もしも何者かが奇襲を掛けて来た時にも備えてのことだ。その時に皆が揃って眠っていたのでは、間抜けにも程がある。
せめて自分だけでもしっかりしなければ、と年不相応にやたら生真面目な性格のこの少年の名はエラム。
焦げ茶の髪に翠眼が特徴的で、中性的な顔立ちである為、必要に応じて女装して視察を行うこともある。とはいえど、別に女装癖があるわけでもないので、本当に必要最低限以外でしか行わないのだが。

そんな彼が料理を終えた時に丁度、誰かがキッチンの方へやって来る足音がした。
荒々しくない、寧ろ控えめで静かな足音。何度もその音を聞いたエラムはすぐに、その足音の主が誰なのかが判断できた。

「おはよう、アッシリア。朝食ならもうすぐ出来るから顔を洗っておいで」

アッシリアと呼ばれた少女は、エラムの妹である。
その証拠に、髪の毛も瞳も全く同じ色で、違う所があるとすればアッシリアの方が髪の長さが胸を覆うほど長いことだろうか。背丈もほぼ同じで、歳もそう離れていないが、エラムにとっては最愛の妹で、アッシリアも同じように兄を慕っていた。

「おはよう、兄様。顔ならもう洗ってきたわ。何か私にお手伝い出来ることはないかしら」
そう言ってアッシリアは微笑む。

エラムは鍋の火を止めつつ、アッシリアに椀を3つ持ってくるよう指示すると、彼女はテキパキと動き、すぐに指示されたものを持ってきた。
有難う、と素直に礼を告げれば、いいえ、と謙遜しつつ再度微笑みを浮かべる彼女。

「とても良い香り…。冷めないうちに、ナルサス様をお呼びして来るわね」
「うん、頼んだよ」

パタパタ、と軽い足音を鳴らしてナルサスの寝室へと向かうアッシリアの背を見送ると、エラムは先程用意された椀にゆっくりと汁を注ぎ、それを零さぬよう慎重に机の上へと運ぶ。
3つ全て運び終えた時、再びこちらへ向かってくる足音が2つ。

「おはようございます、ナルサス様」
「おはよう、エラム。…ふむ、この香りは鳥肉のスープか?」
「流石、御名答に御座います。昨晩仕留めた鳥をバラしてスープにしたもので、朝食なのであっさりとした味付けにしました」
食事内容を詳しく説明するエラムの姿は、高級飲食店に務めるシェフそのもの。
しかし、アッシリアは何故分かったのかと不思議そうな表情を浮かべ、当てた当人のナルサスは、やはりか、とややしたり顔。
皆の意識は、ナルサスの方へ向いていた。


ナルサスは元ダイラム地方の領主であったが、自らその領地を返上し、国王の怒りを買って宮廷を追放されるという中々の変わり者である。しかし、その変わり者に救われたのがエラムとアッシリアの両親だった。

彼らの両親はダイラムの奴隷であったが、ナルサスの奴隷解放により自由の身となる。
ナルサスに大恩を感じた彼らの両親は、遺言にて自分の子らをナルサスの世話係に。アッシリアら自身、ナルサスを慕っており今の生活に不満の欠片も抱いてはいない。
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