夢小説

□第3章
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翌朝。
アルスラーンは、ゆっくりと目蓋を開けると、自分のいる場所が何処なのかを理解するのに少々、時間がかかった。漸く、ここがナルサスの家なのだと認識すれば、ゆっくりと立ち上がり、物音のする方へ歩みを進める。物音の発生源は、どうやら台所であったようで、そこでは早朝からエラムが食事の準備をしていた。彼の方も、足音からアルスラーンがやって来たことに気付いて、朝の挨拶をする。
「おはようございます、殿下」

エラムが食事の準備をしているのに、自分は何もしないというのは何とも居心地の悪いもので、何か手伝えることはないかと尋ねてみるものの、無いと速攻で断られてしまう始末。アッシリアと兄妹だと聞いていたが、容姿は似ていても性格は全く違うな、とアルスラーンは思った。

彼の手際の良さに感心したアルスラーンは、再び口を開く。
「手馴れたものだな、私にはとても…」
「長いこと、ナルサス様に仕えておりますから」
どんな褒め言葉にも、素っ気のない態度を貫き通すエラム。しかし、宮殿では地位欲しさに媚びへつらう者や、立場の違いからよそよそしい態度をとる者ばかりと接していたアルスラーンにとって、エラムの素っ気ない態度は新鮮に感じられた。

「エラムの両親は、奴隷から解放された……だったか」
「はい。ダイラムの領主、テオス様がお亡くなりになり、息子のナルサス様が相続なされた時です。すべての奴隷を解放し、自由民にしてくださいました」
そう言ったエラムの口許が、少しだけ綻んでいたのをアルスラーンは見逃さなかった。
「おかげで、あの三か国同盟が攻め込んで来た時も、手持ちの兵が少なすぎて…。アンドラゴラス王を呆れさせたそうですよ」
その言葉に、アルスラーンは少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと言葉を放った。
「……やはり、奴隷は解放すべきなのだろうか?」

アルスラーンは、自分が何をすべきなのかがよく分かっていなかった。
以前の彼は、奴隷となれば、言うことさえ聞いていれば寝る場所も食事も衣服だって、最低限度は保障してもらえる。だから、素直に奴隷となれば良いのに、と捕虜になった者を目にする度にいつもそのような思いを抱いていた。だが、3年ほど前に出会ったルシタニアの少年やナルサスは、奴隷制度に異を唱える。
確かに、不平等であるとは思う。だが、奴隷の多さこそが、国の豊かさを表してくれるのではないかとも思うのだ。

そんなアルスラーンを一瞥したエラムは、ただ一言言い放つ。
「ご自分でお考えなさいませ」
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