ひとりよがり

□prologue
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モイターシュ療養院はウェストレルの国の郊外にある。辺りにあるのは草原と麦畑ばかり。そんなのどかな場所に、ぽつんと建っている。

療養院というからには病院であるのだけれど、一般的に思い描かれるものとは少し違っているだろう。

モイターシュ療養院は、国指定の難病、翼状水疱症の治療と研究のためだけに存在する医療機関だ。病気自体の研究、治療薬の開発、治験、患者に対するターミナルケアまで、全てを担っている。

翼状水疱症に対する明確な治療法はまだない。回復した事例もない。不治の病といって差し支えのない病気で、発症のメカニズムもはっきりしないため、ほぼ全ての患者がここれ隔離されている。最近になってやっと、人から人へ感染しているとは考えにくいという研究結果が出た。

患者数自体もはとても少ない非常にまれな病気で、被患者は若年層が圧倒的に多いという特徴もあるが、わかっていることと言えばそのくらいだ。

ぼくは、そのモイターシュ療養院で、かれこれ五年ほど、女医をしている。
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