Fate/Void 第二次リアルワールド聖杯戦争

□不審者、不審者、不審者
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ほぅ、と白い息がもれた。
気温の変化が大きくなる季節、マフラーを巻いただけでは逃れられない寒さがその日を襲った。
少女が歩くたびコツコツとローファーの音がする、タイツははいているが少しばかり肌寒いようだ。長めのカーディガンで手元を覆っているが、その薄さ故に指先は冷えきっていた。
はぁ、とまた息を吐く。先ほどからそれを繰り返し、指先をあたためようとするがすぐに冷たくなってしまう。少女の育った地方が地方であるため耐えれるが、寒いものは寒い。
なんであれ自宅はもうすぐ、我慢しよう。そう思いながら手を擦る。

コツコツという音が少女の後ろから聞こえた。足音だ。

人通りこそ少ないが通らないわけではない、普通に通行人だろうと気にもせずに裏道に入った。街灯古いなぁなどと呑気に考えながら足を進める。

コツコツ


「……?」

この道を通る人がいたのか、近所のおばちゃんだろうか。

そうは思いつつも少女は不気味な感覚を覚えた。足音が自身と同じに聞こえるのだ。リズムが、であり音の質は違う。後ろから聞こえるのは重厚そうな音。少なくともドッペルゲンガーではない。少女は帰りたい気持ちも大きいので、速足で歩き始める。

足音も速くなった。


「な……」


いや、気のせいの可能性もある。いっそのこと走ろう。流石にないだろう、走ってくるなんてことは。重い荷物が肩に重圧をかけるが気にしていられない。

カバンの紐を握りしめ、真っ直ぐ前を見つめ走りだす。

足音も走り始めた。

不気味な感覚が危険信号に変わる。相手に検討はつかないが家を知られることだけはあってはならない。回り道を通り撒かなくてはならない。
少女は体力を振り絞り、細い道をかけていく。息が絶え絶えになりながらも足を止めずに走り続けた。


「…っはぁ、はぁ…はぁ……」


ふと、足を止めた。
足音は聞こえない。ゆっくりと振り返る。

──誰もいない。


「──あ"〜……疲れた。」


とはいえ、完全に危機が去ったとは限らない。早く帰らなくてはなるまいと、歩きだして────







「─あいつか、『マスター』?」

「あぁ、そうだ。『ランサー』」


「…………え?」


曲がり角を曲がった先に、一組の男女がいた。

女の方は少女と同年代辺り……つまりは、少女と言っていい年齢だろう。
少女が見たことのある制服、少女が所属する学校よりも上の進学校のセーラー服を着ている。チョコミント色のボーダー柄マフラーをゆるく巻いていて、手には黒の手袋をつけていた。
丁度月明かりに照らされていて顔が良く見える。普通の姿の中、髪が異彩を放つ。一見すると黒髪だが、少女が青いものを身にまとっていないにも関わらずどこか青みがかった色に見えた。瞳は髪で影が出来ておりわからない。…だが、異端に見えた。
そして、男…いや、青年とも呼べそうな若者が、何よりも異端だった。逆立った青い髪、ウェットスーツのような肌に張り付いた服、これも青い。遠目でも分かる赤い瞳がギラギラと輝いている。その手には鮮血のような赤い槍を持っていた。


「……コスプレ?」

「まぁそう思うよね、残念違う。本物」

「そう思うってなんだよ、失礼だな。戦闘服だからなこれ」

「戦闘服だろうがなんだろうが一般人からすりゃ通報もんだかんな、やーい全身青タイツゥー」

「ぶん殴るぞ」

「殴れば?ご勝手に?」


なんなんだコイツら。
それが真っ先に浮かんだ感想だった。
少女の方はまだいい、が。男の方はあきらかに…あきらかに『コスプレ』だ。
その姿を少女は知っていた。

男の姿…それは『fateシリーズ』に出てくるキャラクター、『ランサー』の『クー・フーリン』そのものだった。

少女が最近始めたばかりの『fate/grand order』にて知ったキャラクター。fateシリーズは名前ばかりで内容は知らなかった。彼が初期シリーズ?らしい『stay night』に出てくる人気者と知ったのもつい最近である。

故に少女は、そのコスプレをした男とマスター役の少女だと思った。


「…チッ、この女狐め」

「女狐は玉藻の前だろ…ごめん意味わかってるから槍向けんな死ぬ」


軽口を叩き始めた二人を、少女は警戒する
逃げるために気づかれないよう気を付けて来た道に足を進める。先ほどの不審者は心配だが……アレと絡みたくはないのだ。なんて日だ。数分の間に不審者に三人も遭遇してしまった。

コツ、と一歩踏み出した。


「逃がすな、ランサー」

「あいよ」


風を切る音がした。


「うわっ!?」


同時に少女はつまづいて転ぶ。

ビィィィン──。




「───────は、ぁ?」

「運がいいな、嬢ちゃん。まぁ避けない方が良いぜ。苦しむだけだ」


少女の目の前に、赤い槍が突き刺さっている。
ここはコンクリートで舗装された道路だ、『コスプレの小道具』や、『素人の槍』が刺さるような代物ではない。


「な、な……」

「動くなよ、一突きで終わしたいんでさ」


少女が顔を上げれば眼前に槍の切っ先を向けられる。月光に照されとても美しいものだったが、それが己の命を奪わんとするものと認識すると恐怖に襲われた。

───腰が抜けて立つことができない。


「本物!!?」

「そうだっつってるだろ」

「ペチャクチャペチャクチャ。おしゃべりいつまでしてんだランサー、やれ」

「理由ぐらい説明したらどうだ?」


クー・フーリンの言葉に対して。はぁ、と深いため息を吐いた少女。あー、んー、などの声をあげ、頭をガリガリと掻いた。


「あー…まぁ意味はないけどいいか。
んっとな、君は被害者」

「そりゃこの状況で私加害者だったらイミフなんですケド!!?」

「で、私も被害者」

「……」

「そこのランサーも被害者」

「わけがわからないよ」

「キュウベェいいキャラしてるよね、まどマギ誰好き?」

「あ、はい。杏子ちゃん派です」

「おお、私も杏子ちゃん好きよ」

「マスター、話ずれてるずれてる」


おっと失敬。
そういってまた頭を掻く、彼女の癖なのかもしれない。
黒いスニーカーはガッガッとコンクリートに引っかかる音を出す。少女は座り込んでいる少女に近づいてきた。互いの距離が近くなったおかげで、見えずらかった目元が見える。

日本人特有のダークブラウン…かに思われたが違う、グレーだ。グレーの瞳である。日本人の顔立ちであるにも関わらず日本人ばなれした容姿。カラコンなのだろうか?また、うっすらと隈も出来ており健康そうには見えない。


「我々は被害者だっていったよね、これは間違いじゃあないんだよ。
私と君の関係は『赤の他人』であり、この状況を踏まえれば加害者と被害者の関係であることも事実だ。だがしかし、我々は『ある人物』…いや人じゃあないんだが、まぁうん。あの『自称』に巻き込まれたって意味であれば間違いなく『被害者仲間』だ。そういう意味での被害者だ。」

「…厨二?」

「うーんこのセリフ回しばかりはクセみたいなモンだからなァ、直せん。そうとられても仕方ないんだけど…。三年…いや、コッチにきてからも含めると六年間この口調だからね」

「…?」

「ま、とにかく、だ。
君は『自称』によって『参加者』となった。
けど私にとって君は…というか他の『参加者』は邪魔モノでしかないんでね。悪いけど消えて貰いたい、以上」

「あの、ワケわかんないんですけど」

「わからなくても私らのやること、目的は変わらない」


いまだ眼前にある槍が再度構えられた。


「君には脱落してもらう、なぁに苦しくはないよ。『一瞬』だからね」

「じゃあな」


そして、槍が──────。














「それは困る、彼女は私のマスターなんでね」

ガキィン!!






「────あー…遅かったか」

「ケッ、会いたくないヤローに会っちまったぜ」

「……え?え??」

「大丈夫か、マスター」


少女の横を赤が横切った。そして、槍を止めたのだ。
少女からは背中しか見えない、見覚えのある背中。赤い外套に白髪が風になびいた。白と黒の双剣がゲイ・ボルグを絡めるように受け止めた。


「初めまして『英霊エミヤ』、さっそくで悪いがそこ退いてくれない?そのほうが君のマスターのためなんだよね」

「では私の目の前にいるランサーに槍を下ろすよう言ってくれないかい?物騒でしかたない。あと真名呼びは勘弁してくれ」


───少女は、四月一日仄は頭を抱えたくなった。
 

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