糸を紡ぐ

□転生者と警告と
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「っしゃー!勝った!勝ったぞ少年たち!お姉さんを崇め奉るといい!!!」

「やべぇよねーちゃん!10連超えた!!」

「くっ……!なんという失態だ……!!今度こそ嬢ちゃんに泡ふかせてやろうと思ったのにっ!!」


衛宮邸からの脱走の次の日、空木操は堂々と秋祭会場を荒らしていた。

もう一度言おう。祭を荒らしていた。

正確にいうと子供向けの出店を荒らしていた。射的、金魚すくい、水ヨーヨーetc……。現在は型抜きを10連続成功させている。
周りにいるのは空木操より頭二つ分程度小さい子供たち。おそらく年齢は12歳以下。10歳前後が一番多いように見える。
かなり大人気ないやつである。ただ、競争相手が子供ではなく出店の定員なだけまだ良いのかもしれない。大人気はないが。
先日の弱々しさや闇を抱えた感じはどこへやら。今の空木操はどこからどうみても、バカな大人気ない少女である。
ハッキリ言って『シリアスが死んだ!』『この人でなし!』である。サウス◯ークである。
もしこの場に空木操の悪友がいれば、頭をすっぱたきズルズルと引きずって退散させただろう。しかし残念なことに彼女はトリッパーである。あまり話題には上らないがトリッパーである。悪友は残念ながらこの世界にはいないのであった。

そして、明らかに彼女の言っていた計画とずれているように思えた。
空木操はこれ以上衛宮士郎たちに関わるつもりはない。それは紛れもない本心だ。しかし、いま彼女は『藤村組主催』の秋祭りにいる。藤村大河と故知の関係たる衛宮士郎やそのサーヴァント、また師たる遠坂凛が訪れる可能性はかなり高い。

その可能性があるのも関わらず、彼女がこの場にいるのにはもちろん理由がある。それは───『エサ』を撒くためだ。

空木操という異端のトリッパーのことは転生者界隈では有名である。第五次聖杯戦争の影で行われた『原作派』と『救済派』の戦いに割り込んで、二つの陣営もろともねじ伏せた魔術使い。
だが、その存在はあくまで『都市伝説』のようなものなのだ。彼女と関わった転生者はもれなく音信不通となる。見逃されるのは彼女の目的に支障をきたさない中立派、そのなかでも普通に暮らしている者たちのみ。証言も証拠も少数、本人も転生者たちのネットワークには姿を見せない。そもそも目的が不明。原作派の人間であれば原作派の邪魔をする理由がなく、救済派であれば救済派の邪魔をする理由がない。中立派であれば割り込む必要もなく、原作を改変はしない。

故に彼女の存在は、それぞれの陣営が牽制のために流した噂ととられている場合が多い。
実は、一言に原作派だの救済派だのといっても、その中でさらに分けられる。過激派と穏健派だ。
穏健派は思想こそ持つがそれを押し付けたりせず、できることならそうなってほしいという考えの者たち。過激派は過激的思想の持ち主で、自らの理想ことが真実と信じて疑わない者たちだ。
救済派と原作派の割合が、中立派を踏まえて考えると四割ずつであるのに対し、過激派と穏便派では3対7という数値になる。過激派と呼ばれる転生者は、実は少ないのだ。しかし、分母が多いためそれほど少なさを感じないのが現状である。さらにごく一部の者だったとしても、何かに所属するものが他人に危害を加えたとなれば、その所属するグループが悪と見なされることはよくあることだ。
空木操の中で『転生者』が悪と捉えられている理由はこれが大きい。

そして、過激派に関しては空木操は毛嫌いしている。先日再会した知人の宇井一馬だが、言動から過激派であろうと目処をつけていた。故に斬りかかったのである。

今回目立つようにしたのは、空木操が実在する存在と転生者一同に知らせるための行為なのだ。出店荒らしは子供っぽいが、実は背中に『出張!手作りアクセ作成!』の旗を背負い大きなリュックとバックを持っている。中からはからからと音が聞こえていた。どうやらハンドメイドアクセサリーの材料を入れているようだ。店を固定で出すよりは衛宮士郎御一行との遭遇率が低いと考えたのかもしれない。
もっとも、より確実かつ早く自身の存在を知らせたいだけなら魔術協会に殴り込みに行けばいいだけなのだが……それだけでは一般人の転生者に伝わりにくい。一般から魔術師側へ連絡がいきやすいこともある。故のこの行動。

一見すると、ただ馬鹿騒ぎをしているだけだが、しっかり意味はあるのだ。


「ふははは20連よォ!!無様よなぁ店主ゥ!!!私を落としたくばこれの十倍もってこい!!」


………何やら本来の目的を忘れていそうだが、そんなことはないと切に願う。
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