StoryA
□You Are My Everything
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「お前は賢い男だ、セブルス。この杖の真の主は誰なのか、分かっているだろう?」
「もちろん、あなた様です、我が君」
ヴォルデモートから呼び出しがかかった時点で、スネイプは既に悟っていた。きっとこの叫びの屋敷が、自分の墓場になるのだろうと。
それでも彼が僅かな可能性にかけて足掻いたのは、脳裏に一人の女性が浮かんだからだった。
「セブルス、お前は忠実なしもべだった‥‥‥‥そう、チヒロとは違ってな」
「‥‥‥‥何を、仰っているのですか?」
「あの女は俺様を裏切って、騎士団の一員となったのだ」
スネイプは目を見開いた。いつ、なぜ気づかれた。自分のこと以上に徹底していたはずなのに。
ヴォルデモートはスネイプの表情を見てショックを受けたのだと判断し、笑い声を上げた。
「やはり知らなかったか。とんだ女に好かれたものだなセブルス。いや、お前への態度も偽りだったのかもしれない。‥‥‥‥やはり、愛など信用するものではなかったのだ」
チヒロというその女は、冷静で、冷酷で、無慈悲で、まさに死喰い人にぴったりな存在だった。誰にも信頼を寄せず、笑顔を見せることもなければ、行動を共にすることもなかった。
しかしなぜか、スネイプにだけは心を開いていた。
最初こそ、スネイプは理由がわからず疎ましく思っていたが、ある日を境に、チヒロはするりと彼の心の奥に入り込んで来た。
彼女はスネイプの秘密を知ったとき、静かに涙を流し、何度振り払われてもただただ必死に彼の手を握り続けたのだ。
スネイプは、そのとき初めて見たチヒロの涙の美しさを、今でも忘れられずにいた。
「さて、チヒロのことはどうでも良い‥‥‥‥セブルス、お前がいる限りこの杖は俺様のものにはならない。わかるな?」
「しかし我が君、」
「安心しろ、チヒロもすぐにお前のもとへ行くだろう」
「っ、我が君、」
スネイプは血が滲むほど強く拳を握りしめた。
あの日、“あなたと一緒に戦いたい”と言ってくれたチヒロに、スネイプはまだ何も伝えられていない。
それどころか、彼女を守ることさえも出来なかった自分の無力さに、スネイプは絶望した。
「ナギニ、‥‥‥‥‥殺せ」
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