StoryA

□You Are My Everything
1ページ/3ページ





「お前は賢い男だ、セブルス。この杖の真の主は誰なのか、分かっているだろう?」

「もちろん、あなた様です、我が君」




ヴォルデモートから呼び出しがかかった時点で、スネイプは既に悟っていた。きっとこの叫びの屋敷が、自分の墓場になるのだろうと。

それでも彼が僅かな可能性にかけて足掻いたのは、脳裏に一人の女性が浮かんだからだった。




「セブルス、お前は忠実なしもべだった‥‥‥‥そう、チヒロとは違ってな」

「‥‥‥‥何を、仰っているのですか?」

「あの女は俺様を裏切って、騎士団の一員となったのだ」




スネイプは目を見開いた。いつ、なぜ気づかれた。自分のこと以上に徹底していたはずなのに。

ヴォルデモートはスネイプの表情を見てショックを受けたのだと判断し、笑い声を上げた。




「やはり知らなかったか。とんだ女に好かれたものだなセブルス。いや、お前への態度も偽りだったのかもしれない。‥‥‥‥やはり、愛など信用するものではなかったのだ」




チヒロというその女は、冷静で、冷酷で、無慈悲で、まさに死喰い人にぴったりな存在だった。誰にも信頼を寄せず、笑顔を見せることもなければ、行動を共にすることもなかった。

しかしなぜか、スネイプにだけは心を開いていた。

最初こそ、スネイプは理由がわからず疎ましく思っていたが、ある日を境に、チヒロはするりと彼の心の奥に入り込んで来た。

彼女はスネイプの秘密を知ったとき、静かに涙を流し、何度振り払われてもただただ必死に彼の手を握り続けたのだ。

スネイプは、そのとき初めて見たチヒロの涙の美しさを、今でも忘れられずにいた。




「さて、チヒロのことはどうでも良い‥‥‥‥セブルス、お前がいる限りこの杖は俺様のものにはならない。わかるな?」

「しかし我が君、」

「安心しろ、チヒロもすぐにお前のもとへ行くだろう」

「っ、我が君、」




スネイプは血が滲むほど強く拳を握りしめた。

あの日、“あなたと一緒に戦いたい”と言ってくれたチヒロに、スネイプはまだ何も伝えられていない。

それどころか、彼女を守ることさえも出来なかった自分の無力さに、スネイプは絶望した。




「ナギニ、‥‥‥‥‥殺せ」





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ