StoryA
□Gone Too Soon
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〈 チヒロ side 〉
フレッドとジョージのお店WWWは、今も変わりなく繁盛していた。
その一角で、私は今日も悪戯商品を物色するフリをしながら、笑顔で接客をするジョージを見つめている。
彼はあの日に泣いて以来、たったの一度も人前で涙を見せていない。
「やあチヒロ!ここ最近はいつも来てくれてるね。何かお目当ての商品があるのかい?」
『えっ、あ、うん!そうなの!えっと、ほらこれ!鼻血ヌルヌルヌガーって学生の頃から気になってたのよね!』
何か言い訳を、と思って咄嗟に近くにあった商品を掴んだらまさかの鼻血が出るヌガーだった。
「ははっ、よりによってそれかい?鼻血なんか今更どのタイミングで出す必要があるんだ。けどまあ、君が欲しいって言うなら安くしとくよ、お姫様」
みんなには内緒だ、とウインクをして、ジョージは値引きするどころか代金を受け取らないまま私の鞄にヌガーを入れると、他のお客さんの対応をしに行った。
そう、風のように現れて風のように去っていったジョージは、実は私の恋人だったりする。
私の寮はハッフルパフだったからフレッドとの交流はあまりなかったけど、ジョージとはひょんな事から仲良くなって、気づけば恋に落ちていたのだ。
『そうだよ、恋人なんだから‥‥‥私の前では無理に笑わなくたっていいのに』
またニコニコと愛想よく接客をしているジョージの背中を見つめながら、私は鞄の持ち手をきゅ‥と握った。
ちょうどそのときだ。
何も知らないお客さんが何の悪気もなく「いつもの片割れくんはどうしたの?」とジョージに聞いた。
「‥‥あ、えっと、あいつは、」
「体調が悪いんだ!フレッドは今ちょっと風邪を引いてて‥‥そうだよな、ジョージ」
「あ、そう!そうなんですよ!あいつ普段は風邪なんか引かないくせに、きっと腹を出して寝てたに違いない」
フレッドに代わって店を手伝っているロンが咄嗟に助け舟を出して、ジョージはまたへらへらと笑った。
でも、私は見逃さなかった。ほんの一瞬だったけど、ジョージの笑顔は確かに引きつった。
「‥‥ごめん、ロン」
お客さんが納得して立ち去ったあと、ジョージはぽんとロンの肩を叩いて店の奥へと消えていった。
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