StoryA
□Hold Me Tight
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〈 チヒロ side 〉
今日はなんだか少しおかしい。
フレッドを見るといつも以上に胸がきゅうっとなるし、他のことが全然頭に入ってくれない。
可愛い女の子に話しかけられてるのを見たときに「ヤキモチ妬いてるのかも」とは思ったけど、それもなんか少し違うくて、ただ、フレッドが足りない、と思う。
今だって、少し離れた席でジョージやリーと楽しそうに笑いながら夕食を頬張るフレッドを見つめて、どうしようもなく切ない気持ちでいっぱいになった。
「チヒロってば!」
『わっ、え、なに?アンジェリーナ』
「なに?じゃないわよ、何回も呼んだのよ?』
『うそ、ごめん!全然聞こえてなかった』
「まったく、あなた今日は一日中そんな感じよね。フレッドと喧嘩でもしたの?」
『ううん、してない。私もよくわからないの。毎日会ってるはずなのに、なんだか今日はすごく寂しくて‥‥‥頭の中がフレッドのことだけでいっぱいになってる』
おかしいよね、と言って正面に座るアンジェリーナを見上げると「それ本人に言ってあげたら飛び上がって喜ぶわよ」とにやにやしていた。
「ねぇ、いいこと思いついたわ!」
『いいこと?』
スープを飲んでいたスプーンをビシッとこっちに向けられてちょっと驚いた。アンジェリーナの大きな声が聞こえたのか、フレッドとジョージも首を傾げてこっちを見ている。
そんなことは気にも止めないで得意げな顔をするアンジェリーナにちょいちょい、と手招きされて耳を近づけると、衝撃的なことを言われた。
「今夜、フレッドを部屋に呼んじゃいなさいよ」
『え、‥‥えぇ!?』
「同室の子はみーんな私が連れ出してあげるから!そのまま他の子の部屋に泊まらせてもらうから、好きなだけゆっくりするといいわ」
『私は嬉しいけど‥‥いいの?そんなにしてもらっちゃって』
「もちろんよ。チヒロが寂しいなんて言うのは珍しいし、たまにはフレッドにご褒美があってもいいんじゃないかな、と思って」
『ご褒美?』
「えぇ、だって、いつもはフレッドばっかりがチヒロのこと好きみたいだったもの」
周りにはそんな風に見えてたのか、と思うと胸の奥の切なさに少しだけ焦りが加わった。フレッドも同じように思ってたらどうしよう。私はちゃんと、フレッドのことが大好きなのに。
ちらりとフレッドに目を向けると、食べ終わったのかちょうど席を立ったところだった。
私は慌てて残りのスープを飲み干すと、アンジェリーナにお礼を言って駆け出した。
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