緋色の翼

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Sognarsi U:静かな夜


 窓の外は降りしきる雪で覆われた白銀の世界だった
 道行く人はたっぷりと服を着こんでマフラーに顔をうずめ、手をポケットに突っ込んで寒そうに鼻を赤くしている
 人の気配とは裏腹に酷く静かな十二月の夕暮れ時、少女は暖炉に火をともすこともなく、紅茶の入ったマグカップを両手で包み降りしきる雪を黙々と眺めていた

 クロス元帥に拾われてもうじき一年になる

 それ以前の記憶がないシャナにとって、この雪は人生で二度目のものであった
 曇天の中から止まることなく延々と、しんしんと降り積もる雪は見ていて楽しいがあまり好きではない
 早くやまないだろうかとぼんやり思いながら、目を離すこともできず紅茶を一口、喉を鳴らして飲み込んだ
 少し冷え始めた体がゆっくりと温まる感覚が心地よくて、たった一瞬だが拾われたあの日のことを忘れられた

 もう少しでクロス元帥が帰ってくる
 どういう風の吹き回しか、いつもは昼でも夜でも遊びつくして金をばらまく彼が散歩に行く、九時ごろには戻ると言い残して出て行ったのだ
 今まで時間を告げて出かけたのは数えるほどしかない
 きっと時間通りに帰ってくるだろうことを見込んでシャナはようやく冷え切った部屋に暖を灯した
 木の焦げるにおいが部屋中にたちこめる
 どうしてもこのにおいが苦手でシャナはあまり暖炉を使いたがらないが、クロス元帥のことだ
 部屋を暖めておかなければ容赦なくご自慢の金槌を脳天にお見舞いしてくることだろう
 シャナは仕方なしに紅茶のにおいで鼻をごまかすことにした

 それからしばらく後、予告通りの午後九時
 日がどっぷりと暮れ、あたりは人の気配さえ消え去った頃、宿屋のドアが荒々しく開けられた

「おい、シャナ。明日マザーのもとに向かう。それまでこいつの面倒を見ておけ」
「え、え?」

 そこにいたのはクロス元帥と、抜け殻のように涙を流し続ける白髪の少年だった
 左目の周りは血をじっとりとにじませ、右目はずいぶんと泣いたのか赤く腫れあがっている
 状況がつかめずシャナはクロス元帥に目を配ると部屋の奥から余分な毛布を出しているところだった
 普段の彼からは想像もつかなない行動に頭がさらについていかない
 だが、目の前の少年を放っておくのも気が引ける
 一瞬の思案ののち、後で事情をきこう、今は目の前の少年だと思いなおしてシャナは急いで湯を沸かす準備にかかった
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