雪兎の足跡

□03
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「話は変わるが京子にはこのことを正直に話していない…。あいつすぐ心配するんでな、口ウラをあわせといてくれ」
「え…?」

 そこで、タイミングを計ったように病室のドアが開いた
 目がくりっとした可愛らしいショートヘアの女の子
 その子が病室の青年をみつけて心配そうな表情に顔をゆがめる

「お兄ちゃん!!どうして銭湯の煙突なんて登ったの?」

 言い訳が苦しすぎるっ
 突っ込みを入れたい衝動をぐっとこらえた
 確かに今日話した限りの彼の言動と事前資料で目を通した性格的にないことはないと思うが苦しいにもほどがある
 慌てて私はくわえて口を手で覆った
 不謹慎にも笑いそうです

「お兄ちゃん…それ本当にネンザなの…?」
「ああ」
 絶対違うっ!!
「うそ!ネンザで入院なんてするの!?」
「ひどいネンザなんだ」
「手の包帯は?」
「手もネンザだ!」
「(どんな会話してんだ…?)」

 心配させまいとしている不器用だが彼なりの心遣いなんだろう
 見ていて楽しいし、少しホッとする

「でも、良かった…生きてて…」

 彼女の目から涙がほろりと落ちる
 よほど心配だったらしい彼女は私もツナも視界には入っていないようだった

 なんとなく居心地が悪くなりツナが病室を出るのに続いて部屋を出た
 兄弟ってあんな感じなんだな…とほんの少しうらやましくなった
 まあ、あんな兄はいらないが

「なんでお兄さんがやられてんの!?一体どーなってんのー!?」
 人目もはばからず悲鳴を上げるツナ
 どうどうとなだめてみるが効果は薄いらしい
 慌てふためく現状は変わらなかった
「パニクってんのはツナだけじゃねーな」
 リボーンに言われてあたりを見ると確かに青い顔の人たちでごった返していた
 しかもみな私たちと同じ制服を着用している
「病院に並中生ばかりーー!!?」
「おおダメツナ」
 その中の一人の男子生徒がツナに近づいてくる
 いつも小ばかにしているらしく呼び名こそ変わらないがどこか顔色が優れない
「大変なことになってんな!」
「どーしたの?誰かのお見舞いぬ・ぬ」
「ああ…部活のセンパイ、持田さんが襲われた」
「ええ!?剣道部の持田センパイも〜!?」
 名前を聞いてもピンと来ないので資料にはなかったようだが、ツナの反応を見る限りそれなりの実力者らしい
 並盛中は宝の山なんだなぁ
「それだけじゃない。昨晩から3年で5人、2年で4人、1年で2人風紀じゃない奴が襲われてる」
「ええ…?風紀じゃないって……!」
「並中生が無差別に襲われてんだよ!!」
「うそー!!なんでそんな恐ろしいことにー!!」
「…これは九代目の超直感も伊達じゃないってことなのかな…」

 いや、もしかしたらこの事件のことではないかもしれないけど
 そう思いたくなるほど並盛が危険に瀕しているということがなんとなくわかった

「マジやべーって、明日は我が身だぜ!!」
「ってことはオレも関係あるの〜!?どーしよー!!」
「六花に護身術でも習うか?」
「じゃあ手始めに片足2.5キロの重りでもつける?」
「いやだからー!」
「っていうかダメツナ、誰だよそのかわいい子」
「あ、いやこの子は」

 急に、場の空気が変わった
 凍り付いたというよりはピリついた雰囲気に振り返るとリーゼント達が列をなして廊下を闊歩していた
 なぜか並中生全員が頭を下げる
 これは並中のしきたりなのだろうか
 状況についていけずつい身を隠して気配を殺す
 マフィアにはもろバレかもしれないが一般人には少なくともバレない…と思う

 なんとかその場をやり過ごし、ふうと息をついた

「ヒバリさんが敵をやっつけに行ったって!」
「ヒバリさんは無敵だぜ!!これで安心だ」
「ヒバリさんと同じ中学でよかったー!!」
「あとは頼みます!神様!ヒバリ様!!」

 たぶん、あのリーゼント達がヒバリさんは黒曜に乗り込んだ的な話を聞いたんだろう
 なんだか嫌な予感がする
 ぞわっと悪寒が背を走った
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