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□教えてご主人様
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これが昨日の夜までの話である。今朝起きたら隣にこの男が眠っていて、松本が驚いて声をあげるとのそのそ起き出して指をぺろぺろと舐めたのだ。
「誰っ、え、何…?」
「まーだよ!ご主人様、俺、猫のまー!やっと人間になれたんだ!!えへへ、嬉しいな。なんでか分かんないけど、人間になれたよー!」
はしゃぐ男とは対照的に、松本はとにかく目を丸くするばかり。訝しげな目で男を見ながらスマホの緊急通報画面を開く。
「はぁ?何わけ分かんないこと…まーはどこだ?け、警察呼ばないと…!」
「ご主人様、俺がまーだよ!もう猫じゃないけど…信じてよぉ…あとけいさつって誰?」
パニック状態の松本をなだめるように、まーは寂しげな顔で見つめる。松本はその眼差しを何度も見た覚えがあった。行ってきますと言ったときに見上げてくる、いつも寂しそうなくりくりの目。
「……本当にまー?」
「まーだよ、ほんと!」
男は突然擦り寄って、松本は一歩後ろへ引いたが、その様子で確信に変わった。撫でてほしいと甘えてくるその仕草が、まーそのものだったのだ。
「まー、なんだ、ね……」
「人間になったまーはイヤ…?」
「イヤじゃないけど……」
突然のことで脳が処理落ちした、と言っても伝わらないだろうと思ってあえて口をつぐむ。よく見るとまーに付けていたグリーンの首輪が、自分はまーだと主張するその男の手首にあった。
「とりあえず……服着ようか」
ゴワゴワするからイヤだと暴れるまーに、人間として生活するならこれを着ろと躾をするとまーは大人しく従った。
松本はその後も丸一日使い、元飼い猫のまーに人間のルールを覚えてもらうよう躾をした。元々素直な性格だったまーは、主人の言うことを一生懸命聞いて人間の生活に慣れようとしていた。
* * *
お腹が空いたと言うまーに冷蔵庫にあったプリンを渡すとひどく喜ばれた。
「あんなに美味しそうなもの食べられるなんて、人間は羨ましいなって思ってたから嬉しい!神様に感謝だね、いただきまーす!」
「どう?初めてのプリンは。美味い?」
「何これ?!柔らかくって甘くてとろとろ……あぁ嬉しいなぁ、人間になれて良かった…」
幸せそうにプリンを頬張るまーを見て思わず目尻が下がる松本。こんなに美味しそうにプリンを食べる奴なんて見たことがないなと笑った。
「ねねね、ご主人様は、せんせーになりたいんでしょ?せんせーは、教えるシゴトなんだよね?」
「ああ、そうだよ。」
「ご主人様はきっと、せんせー向いてると思うよ!俺にたくさん教えてくれる!これからもたくさん教えてくれるでしょ?」
無邪気な笑顔が可愛らしいと思ったから負けだ。松本は彼のそんな何気ない一言で、やっぱり俺のまーなんだなと悟ったのだった。
* * *
まーが人間の生活に少しずつ慣れ、また松本も少しずつ人間のまーに慣れたある日の夜。ベッドに寝転んでスマホを見ていた松本に、まーはもじもじしながら馬乗りになった。前まではまーが乗ってきても大したことはなかったが、今は自分とほぼ同じ大きさの人間が馬乗りになるわけで。
「お、重い……ごめん、まー降りて。どうした?」
まーは顔を赤らめ、あのさとかえーととか言いにくそうにしながらもようやく口を開いた。
「あのねご主人様。猫は気に入った子とこんなふうにして…こ、交尾をするんだけど…人間はしないのかな」
飼い猫の大胆発言に驚く間もなく、まーは松本と股間をすり合わせるように腰をグラインドさせた。明らかに普段の状態ではないものを松本も感じ、起き上がってまーと向かい合う。
「ちょっと待ってまー、落ち着いて…交尾?」
「うん。人間は交尾しないの?」
「いやまぁ、するけど…」
会話の間もまーは腰を動かし、なんとなく息も荒くてつらそうだ。いけないと分かっているのに、まーの可愛らしさとその大胆ないやらしさで心臓が高鳴る自身に、松本は少し嫌気がさした。
(俺、飢えてんのかな…)
「交尾したいよご主人様…人間の交尾教えて…?」
甘えた声で懇願するまーの愛くるしい姿に触発され、松本はタガが外れたように強引にまーの頬を両手で包み唇を奪った。
「…っはぁ、はぁ……猫は、オスとメスで交尾するんじゃないの?」
「ううん…俺はご主人様としたいの…」
「あぁそう。もう分かったよ、まー」
今度は松本がまーに馬乗りになった。初めてのキスの衝撃でまだ唇が震えているまーが初々しくて思わず不敵な笑みがこぼれた。そっちがそうならこっちだって本能に従ってやる、と言わんばかりに、まーの服を剥いで露な姿にした。
「ご主人様、楽しい?」
「え?」
「笑ってるから…」
「今からお前と交尾するのが楽しみでつい笑っちゃったんだよ」
「うん、俺も楽しい。ねぇご主人様、もっと人間のことたくさん教えて。俺まだ何も分からないから…」
「それじゃあ、まず……交尾じゃなくて、セックスって言うんだよ」
まーは人間として初めて与えられる快楽と、松本の溢れんばかりの愛を全身で受け止めた。頭が真っ白になり何も考えられなくなるほどの衝撃に、まーは虜になった。
「人間はいつもこんなことしてるの?気持ちよすぎるよぉ…ご主人様、もっと…」
「セックスは好きな人としかしないことだよ。俺とまーは好き同士だから、たくさんセックスしていいんだ」
「ほんと?嬉しい…もっと、もっと…ああっご主人様、好き…」
飲み会の誘いや、まーを見たいと自宅に押しかけられそうになったとき、断る口実を考えないといけないなと困ったように笑う松本だった。