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□Yes, sir.
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ご主人様と初めて出会った日を、俺は今でも鮮明に覚えてる。俺は喫茶店のアルバイトのウェイター、彼はそこにやって来たお客様だった。
「ホットコーヒー、ひとつ」
「はい、かしこまりました」
* * *
「雅紀、食べないなら捨てるぞ!」
「へっ?あ……ごめんなさい、ご主人様。食べますっ」
「ったく、何ぼーっとしてるんだか……」
窓の外のひときわ明るい星を見ながらぼんやり昔のことを考えていたら、いつの間にか食事が用意されていた。いけないいけない、せっかくご主人様が用意してくれたんだから、早く食べないと。俺は四つん這いのまま、床に置かれたエサ皿に顔を近づける。手を使ってはいけない。むしろこれは“前足”なのだから。俺は、ご主人様の犬だから――
「食べ終わったらそれ、キッチンに持ってきて」
「はい、ご主人様」
誤って床にこぼしたおかずもキレイに舐めとって、俺はエサ皿をくわえてキッチンで食器を洗っているご主人様のもとへかけよった。ご主人様を待つ間にはおすわりをする、という言いつけもきちんと守れている。彼が俺をしつけてくれたおかげで、俺はとっても良い子でいられる。
「よしよし、偉いぞ。さ、明日は休みだし、今夜はたっぷり遊ぼうな」
ご主人様は俺の頭をくしゃくしゃ掻いてくれた。はい、遊んでください、と返事をして、いつも通りに彼のベッドで丸くなって、彼がひと段落するのをまどろみながら待っていた。