Novel(Dream)

□「紅い海の真ん中で・d」−Blooming Prairie・d−
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 そして、その歌声はゆるやかに、のびやかに、広がっていった。
淡いような、儚い束の間の夢のような旋律は
雲一つ無い空へ、紅い花々の絨毯へ、寝転ぶ二つのモトラドへ、黒くて長く美しい髪を持った少女へ伝わっていく。
紅い花の上に佇む黒く短い髪を持つ精悍な顔立ちをした少女を中心に、その歌は広がっていた。
天に願うように両手を重ね顔を上げた格好の後ろ姿に向かって、割れんばかりの拍手にも聞こえる風がざざ、と吹き付けた。
地面に腰を下ろしその歌声な聞き入っていた少女の髪が風に吹かれ踊る。枯れ葉色のコートがばたばたと暴れた。
ふぅ、と風音に混じって息をつく声が聞こえる。
本物の、一人分の拍手が送られた。


「アンコール、相変わらず鈍らないねぇ」

「驚いた、こいつには聞いていたけどまさかここまでとは」

「はは、ありがとう」


 コートを羽織った少女がくるりと後ろを向いて、裾が揺れる。
それに伴って腰を下ろしていた少女が立ち上がってその髪を揺らした。


「凄かった......いつまでも聞いていたくなっちゃう」

「...カミラは歌に興味、無かったんじゃ?」

「元々は、ね......今、こんなにも歌が好きになっているのは...キノ、貴方だからだよ」


 キノと呼ばれた旅人は少しばかり目を見開いた。そして、ゆっくりと微笑む。


「ボクだって、さっきまで音楽に興味何て無かった。
でも、今カミラの楽器を見ていると...不思議と、落ち着くんだ」


 カミラと呼ばれた少女もまた目を丸にし、笑顔を浮かべる。
二人の間に風が吹き抜けた。


「あー、二人とも?お熱いところ申し訳無いんだけれども、
そろそろボディに紅い色が移っちゃいそうだよ」

「カミラ、流石に起こしてくれない?」

「あぁ御免ね、テレーザ」


 二人がモトラドを花畑の上に立たせる。
光沢を放つボディから数枚の花弁が落ちて風に流されていった。


「で、これからどうするの?」

「そうだなぁ...カミラ、君はどうしたい?」



「私は......もう少し、ここで」

「そっか...じゃあ、ボクも」


 一面の紅に、四つの点があった。

 

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