Novel(Feature)

□暗殺の国-The target is teacher!-「旅人の時間」
1ページ/3ページ

 


 そこは、緩やかな傾斜のある山道だった。
 山道とは言っても綺麗に整備されている訳では無く、モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものを指す)や車だとさぞかしがたがたと揺れることだろう。
しかし、モトラドはまだしも車が通れる程の広さではない。とても狭い道だった。
そこへ時々吹く風が木々の葉を揺らしさらさらと音をたてる。
 そんな良く言えば自然が身近な、悪く言えば辺鄙な場所に二つの影があった。
一つはタンクに実際の景色より湾曲した森を映すモトラドが一台。もう一つは山の斜面に立ってぼおっと下の景色を眺める人の姿だった。


「ねぇ、今考えていること当てよっか?」

「...」


 若い男の子のような声が葉の擦れる音に混ざって聞こえる。
返事はなかった。


「きっと『ああ、一体ここはどこだろう?ボクがハンモックに体を委ねた場所は草原の直中だったじゃないか!』って思っているんじゃない?キノ」

「...まぁ、そうだね」


 立ち尽くしていた人間の口が微かに動く。そして、続けて言葉を紡ぐ。


「ボクらは草原で昼寝をしていたのに、何故か山の中にいる。
それに...あと一週間は次の国に着かない筈なんだ」


 旅人、キノの目の前には辺り一面建築物が並んでいた。

 キノにとって、この光景は囲まれた城壁の中にあるのが普通。
だが、辺りをいくら探してもそれらしきものが見えることはなかった。


「もしかして、とんでもなく大きな国に入ったのを忘れて、余りに余った土地を草原と勘違いしたりとか?」

「まさか、ボクはちゃんと出国したよ。
それに、もしそうだったとしても起きる場所は草原じゃないといけないじゃないか」

「まぁ、一晩で草原が森に変わる訳ないもんね。
それで、キノ。これからどうするの?」


 キノは旅荷物をたっぷりと乗せたモトラドに振り返ると

「とりあえず、上から町の様子を見てみよう。
迂闊に近寄ると面倒ごとになりそうだし、何より...
...大分荒れてはいるけど、これは人が土を踏みしめて出来てる道だ。上に誰かいるかも」

と山の上を見つめて呟く。


「そこでキノがばばばーんちゅどーんだね」

「荒事は避けるよ、エルメス」


 ちぇ、とモトラドのエルメスが残念そうに呟くと、
キノは周りに何も残していないのを確かめてエルメスのハンドルを握る。


「あ、押していくんだ。よろしくー」

「...やっぱり下に行っておけば良かったかな」

「ま、根に花は帰らないよ」

「...背に腹は変えられない?」

「そうそれ」


 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ