long (Marco)
□玖
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翌日の休みはある大学の図書館にいた。
と、言うのも友人からどうしても外せない用事が出来たので、代わりに文献を整理しておいて欲しいという依頼。
奥まったそこにはありとあらゆる本の山。山。山。さすが古典文学の資料室。
俺もいく、というマルコと二人資料室にはいり、私は本のタグ順に並べて紙にチェックをしていく、いわば棚卸し状態。
「。。。これを一人で整理しようとしてんのかぃ?」
「なんか頼まれたら断れなくって。」
苦笑いを浮かべながら答えると
「頼んだ奴はなんの用事なんだよぃ?」
「家族でお出かけ?旦那さんようやくやすみとれたみたいでさぁ。ほら、私独り身だから時間あるし。」
笑って振り向くと、納得してない表情のマルコが「お前はお人好し過ぎるよぃ。」と呆れた声で答えてくれた。
上の本棚から順に本をチェックしてバインダーに挟んだリストにレ点を打っていく。マルコは日本語の読めないがタグのローマ字と数字はわかるからチェック係だ。私は脚立に登りながら番号をひたすら読み上げていく。いつも見上げているマルコが下にいるのがなんか新鮮だ。
「2人でやると早いね!」
「これを一人でやろうなんて無謀だよい。なんか友人とやらからは対価はあるのかよい。」
「え?何もないよ?」
「はぁ。本当にお人好しのバカだよい。あぁ、だから俺が養われてるのか。納得だよぃ。」
「えー?養ってるのか?そうなるのかぁ。でも困ってる時はお互い様でしょ?」
マルコは左手首に目を落とした。そこには昨日名無しさんから無事に帰れます様にとお守りだと言って買ってもらった青い紙紐。赤い色違いのそれは今名無しさんの手首に巻きついている。
「名無しさんがこっちの世界に来た時は恩返ししねぇとな?なんでも買ってやるよい。」
「お!いいね!楽しみっ」
「お前に会えなかったら俺は、知らない世界でずっと野宿だよぃ。本当に助かってるよぃ。」
消え入りそうな声で言うから心配になりマルコの表情を脚立の上から覗き込んだ。
ガタっっ
「きゃあ!」
「おい馬鹿っ」
落ちる!と目をつぶって衝撃に備えていたのにぶつかったのは暖かい何かだった。
「ったく。怪我ねえか?」
私の下にいたのはマルコで。マルコの上に腕で守られる様に抱かれていた。
「脚立の上で覗き込めばバランス崩して落ちるだろぃ。馬鹿か?」
言葉使いは雑だけと、その手があまりに優しくて。そのアンバランスに思わず笑ってしまった。
「次はねぇぞ。」
「ごめんごめん。気をつける」
立ち上がらせてもらい、脚立を元に戻してくれている隙に落ちていた本を拾い上げた。
「あれ?この本タグがない。」
パラパラとめくり中を見ると古典の様だ。次のページを何気なく見て時が止まったと思った。
【月夜。潮の満ち引きの激しき時。扉は光と共に開かれかれけり。またその扉現るるは水面に月の道が現れし時。または光り無く真の暗闇の時に限りけり。】
「マルコ。。。これ。。。」
【扉を潜るもの。時空をも越えるべし。】
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