long (Marco)

□5.5
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名無しさんとの再開をあんなに願って止まなかったのに。やっと出会えた時、彼女は血塗れで瀕死の状態だった。

サッチを救うことができ、テイーチの処罰にエースも納得して計画は事なきを得たが、彼女の再来と大怪我は俺のシナリオには無かった。

彼女が眠り続けていた3日間。俺は何をしていたのかあまり覚えていない。覚えているのは青白い名無しさんの寝顔と冷たい小さな手の感触だけだ。

お願いだから目を開けてくれ。
ちゃんとお前に伝えなきゃいけない事がある。
離れて初めて気付いた。こんな風に女を思った事は今までねぇ。女なんてヤるだけだと思ってた俺がこんな風に人を想う時が来るとも思っていなかった。


「もう一度でいいから。。。よい。笑顔見せてくれよい。マルコって。。。呼んでくれよい。。。」




やっと目を開けた名無しさんの言葉に背筋が凍りついた。これはなにかの悪戯か?

平然と全てを受け入れたフリをして、隊長陣や親父に話を通して対応していく。


いつも目で追ってしまう名無しさんの横顔。向こうにいた時と何も変わっていない。


でも、彼女は何も覚えてない。
こことは異なり、ゆっくりとした温かい向こうでの日々も。

最後の日に俺のものにしたくて最後の我儘で唇を合わせたことも。
抱きしめた時の小さな身体も。暖かい体温も。全て俺は。


「俺は覚えてるよい。忘れやがって。この馬鹿が。。。」


小さくひとり呟いた。



思い出してもらえるかわからない。
それより今は名無しさんの怪我の完治が最優先で。彼女が不自由なくこの船で生活するのが最優先で。

でも小さな独占欲で部屋を隣に設け、何かと彼女に仕事を頼んだ。

もともと向こうの世界でも書類整理やら計算やらをしてたんだ。
俺の仕事の手伝いを覚えるのが手っ取り早いが、俺が向こうで文字が読めなかったようにあいつもこっちの文字が読めない。
だったら。と、文字を教え本を貸す。
俺はすでに彼女を元の世界へ還そうなどと考えていない。


記憶が戻らないなら還りたいとも考えないんじゃねぇか?


それが俺の出した答え。


記憶がないなら、なくてもいい。
これから俺との記憶を作っていけばいい。
いっその事こと、俺なしでは生きていけない様に。
一生このまま俺の隣に。


必死に文字を追いながら質問をしてくる彼女を隣に、俺はそんな事を考えていた。



島にでた後の夜、イゾウに呼び出された。


「お姫ぃさんの朱雀の能力をみた」


そう言われて頭に血が上り、考えるよりも早くイゾウの襟元を片手で持ち上げ吊し上げていた。


「名無しさんになにしやがった!まだあいつは怪我が治ってねえ!答えによっては許せねぇ!」

「落ち着けマルコ。ちょっとだけ俺の腕を切って治してもらっただけだ。ほら見ろ。傷跡すら残ってねぇ。」


無言でイゾウの指す腕を見るも何も残ってない。そもそも本当に傷があったのか?コイツの戯言じゃねえのか?


「信用してねぇみてぇだな。まぁ、時期にわかるさ。あのお姫ぃさんは少なくとも怪我は治せる。あとは病気に効くかどうか。。」

「俺はその為に名無しさんをこの船に乗せたわけじゃないよい!」

「親父の病気が治って欲しいのはお前も一緒だろう?マルコ。」



イゾウの口元が弧を描く。
見透かされている。そんな気がして腹立たしいまま襟元を掴んでいた手を解いた。


「あいつの能力は赤い炎だ。エースのとも違う朱色。マルコ、お前さんと能力も色も対局だな。名無しさん綺麗だったぜ?」


カッとなり殴りかかるがイゾウに避けられた。喉で笑いながらイゾウはその場を去っていった。


人を癒す名無しさんと自分を再生する俺。
朱い炎と蒼い炎。


「生きる世界も何もかも俺と違うって。俺の手には入らないって言いたいのかよい。。。」


暗闇に姿を消した後の廊下をただ見つめてぽつりと口にした。



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