long (Marco)番外編
□雨に唄えば
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窓が濡れている。
走る電車の中にいても雨の当たる音がBGMの様だ。
天気予報で雨と言っていたけど、傘は持っていかなかった。
一つしかない傘をもしかしたら家の中で待つあの人が使うかもしれないから。
駅に着いたら買おう。と思い駅前のコンビニに走ったけど、こういう時に限って売り切れで。
諦めて歩いて帰る覚悟を決めた。
普段車で動いているので、駅から家までは歩くとちょっとある。
春先の雨とはいえ、夜にもなると冬のそれのようで。雪なら良かったなぁ。なんて考えてもどうしようもないことを想像してみた。
「夜半過ぎには風を伴い本降りになるでしょう」
電車の中の画面から流れていた予報通り、時折ごうっと風が吹く。
スーツは既にずぶ濡れ。
ついてない。帰って整えてもクリーニング行きかもしれない。
「こんな時、マルコに迎えに来てって頼めたらなぁ」
とはいえ電話もない。携帯は私しか持っていない。物理的に無理なのだ。
ふと頭に過ったいつかの歌を小さく口ずさむ。雨に濡れながら大好きな人を思うそんなラブソング。
ようやく見えてきたマンションの自室に人影が見えた気がしたと思った次の瞬間、頭から何かを被せられた。
「なに呑気に下手くそな歌、歌ってんだよぃ。ずぶ濡れじゃねえか。」
見上げるそこには家にいるはずのマルコがいて。かけられたのは彼に買ったライトダウンだった。
「へ?」
我ながら変な声が出た。
「ちんたら歩いてんじゃないよい。ほら行くぞ。しっかりつかまってろよい。」
膝裏にマルコの腕が入ったと思った時には既に抱き上げられていて、すごいスピードで走り出し気付いたら2階の部屋のベランダだった。
「ちょっ。。。こんなとこ誰かに見られたら怪しまれるって!」
「大丈夫だよい。誰の気配もなかったよい。」
あぁ。見聞色かぁ。すごいなぁ。なんて呑気なことを考えながらベランダに下ろしてもらう。
「あ、マルコごめんね濡れちゃったね。タオルタオル。」
「俺は平気だよぃ。名無しさんは早く風呂でも入って温まってこい。風邪ひくよい。」
タオルを引き出しから2枚出してその1枚をマルコに渡す。そのままマルコの着替えを先に出したら呆れた様なため息が上から降ってきた。
ばさっ
マルコに渡したはずのタオルが頭にかぶさる。少し乱暴な手つきで頭を拭き
「俺は平気だと言ってるだろうよい。いいから名無しさんは早く風呂場行け。俺もちゃんと着替えるから。」
うん。と、俯きながらその優しい言葉に少し赤くなった顔を見られない様にその場を後にした。
雨の中で歌っていた歌は片思いの歌だった。雨の中でずっと想い人を待つ片思いの歌。
『夢の中でだけでも抱きしめられたら』
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