腐向け小説

□赤い花
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遠くから声が聞こえる。
これは、おついちさんと兄者の声だ。何かを話しているようだ。

「好きなんだ、好きなんだよ。」

「・・・分かってるよ。」

うっすらと目を開けると、兄者は頭を抱えておついちさんと話していた。俺は、あのまま寝てしまったからかソファに寝転がっている。そして、俺の体の上には毛布がかけられていた。

「兄者…色が…」

「はっ……色って変わるのか?」

「これって…心境が変わったってこと?」

俺はよくわからず、ムクッと起き上がった。すこしだけ落ちた花弁を見ると、色は黄色かった。ただ、色が変わっただけなようだ。

「・・・どうしよう・・?」

最近、やつれてきた俺は頭の回転が遅くなっているような気がする。簡単な事でも、結構な時間考えてしまう。

「・・・大丈夫だ。」

「大丈夫じゃないよ・・・。だって、気持ち悪いだろうしグロいよ。」

兄者は、そういってくれたはいいもののやっぱり、気持ち悪いものは気持ち悪い。

「まあ、落ち着いて。弟者、お腹空かない?」

「・・・ううん。ごめん、いらない。」

そういう俺に兄者は腕をつかむ。兄者の顔を見ると、どこか痛そうな苦虫をつぶしたような顔をしている。俺は意味が分からず、首をかしげていると兄者が口を開いた。

「すこしくらい食べろ。このままじゃ、死ぬぞ。」

「いいんだよ。もう死ぬ運命だから。」

何もかもを諦めている。だって、叶うはずないんだから。すこしだけ笑ってそういうと、兄者はびっくりした顔をしていいたが、すぐに怒りの表情に変わった。
どうしてそんな表情になるのだろう。その疑問しか渇かなかった。

「簡単に死ぬなんて言うな!」

「え・・・ちょっ・・痛いよ。」

兄者は何かに叫ぶように言う。何が兄をそうさせているのかわからない。ただ、兄者の爪が俺の腕に食い込んでチリチリ痛むのだけ、鮮明にわかる。
グルグルと考えていると、急な睡魔が襲ってくる。いつものとは、比べ物にならないくらいのだ。俺は、何か叫んでいる兄者に何も言えず目を閉じた。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


【兄者視点】

あれ以来、弟者は俺を避けるようになった。そして、さらに寝るようになった。夜寝たら次の日の夜なんて当たり前のようになっていた。それに加えて、ほとんど何も食べない。
おついちさんといるときは、たまに食べているけれど俺といるときは何も言わないし食べない。
それが、俺にとっては心配でしかなかった。だって、俺の思い人があんなにもやせ細り片目からはきれいな花を咲かせている。綺麗だが、それが弟者の養分を吸い取っていると考えるとむしり取りたくなる。
でも、壊れそうなくらいきれいな花は弟者を表しているような赤色だ。この前は、黄色だったが。どうやらその人の感情の変化で色が変わるようだ。

「弟者、いつになったら食べる。」

「いや・・食べれないよ。」

弟者は、目の前に座って困った顔をしている。俺は、こんな顔をさせたいわけじゃない。でも、しょうがない。こいつのためであり、俺の為でもある。

「・・・あ、にじゃ・・。」

弟者が俺の名前を呼んで落ちた。落ちたというよりは、睡魔に負けたようだ。ここのところいつもそうだ。嫌がる弟者の味方を、まるで体がしているようだ。そんなに俺がいやなのだろうか。

「仕方ねぇ。」

俺は、弟者を寝室に運ぶ。片目からはきれいな花が咲いている。
なんであの時、生きることを諦めるような顔をしていたんだ。お前が、そんなに愛しているのに愛してくれないやつなんて、忘れちまえ。
そんなことも言えるはずもなく、俺はすやすやと寝ている弟者の額にキスをした。

「おやすみ、弟者。明日も起きろよ。」

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

次の日、おついちさんが遊びに来た。といっても、弟者はまだ起きてきていない。

「兄者、いいの?言わなくて」

「言えるかっての。」

「でも、片思いじゃなきゃいいんでしょ?兄者も覚悟を決めなよ。それとも、弟者が生きているのに一生兄者の名前を呼ばれなくてもいいの?」

「・・・よくない。」

「でしょ?なら、頑張んなさい。もし降られても、慰めてやんよ。」

「っふ・・・ありがとな、おっつん。」

「いいえ!」

こういうとき、おついちさんはとても頼もしい。それから、昼過ぎまで話した。おついちさんは、夜に用事があるとの事だったから帰って行った。

「それにしても、遅いな・・。」

今は夜である。そして、この時間はだいたい弟者がおきてくる時間なのだ。気になった俺は、弟者の部屋に行く。中からきれいな寝息が聞こえる。
そこで、思い出した。

“寝る時間が長くなって、最後は寝たきりになっちゃうんだ。”

そういって悲しそうに笑う弟者。
ダメだ。俺はまだ、伝えられていないことがある。だから、お願いだから目を開けてくれ。

「弟者・・。」

“兄者・・?”

困ったような顔で聞いてくる弟者の顔を思い浮かべる。どうして、そんな顔をしているんだ。俺じゃダメなのか。目から涙が出ている。
俺は声を殺して泣いた。
それから、二日間弟者はずっと寝ていた。
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