ゆうなぁ短編
□茶番
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ラジオの収録を終え、時刻は深夜の1時に差しかけていた。吐き出す白い息に、ふと寒さを思い出したかのように身震いをする。
慌てて散乱したカバンからマフラーを引きずり出すと、その奥に振動とともに光るスマホに気づいた。
(収録中はマナーモードにしているからなぁ……)
そう思いスマホを手に取ると、茂木さんからのLINEが1件届いていた。
「おんちゃん、きて」
と普段やかましいぐらいにスタ爆してくる茂木さんとは思えないほど、あまりにあっさりとした文面に、私はなんだがとても嫌な感じを覚えた。
なんか嫌なことでもあったのかなと加速していく不安に、私は足早にタクシーへと乗り込み、茂木さんの家へと急いた。
ピンポ--ン……
チャイムの音が階層全体に木霊する。普段ならすぐ出る茂木さんが、今日に限ってやけに遅い。
「遅いってことは、ドッキリじゃないみたい……やっぱ何か嫌なことでもあったのかな…?」
まるで独り言のようにボソボソと呟いては、私はもう一度チャイムを鳴らした。
ガチャ……
しばらくしてやっと扉が開いた、と思えば、話すまもなく腕を捕まれては中へと引きずり込まれていった。
そのあまりの強引さに、私はバランスを崩し、そのまま人影の方へ倒れ込んでしまった。
「いたたぁ……って
もぎ…宮くん…!?」
黒いウルフカットに紺色のブレザー。ゆるゆるのネクタイから覗くシルバーアクセサリーが鎖骨を強調する。
「正解!」
とニカッて微笑む茂木さん改め茂木宮くんは私をギュッとだき抱えながら、ヨシヨシと頭を撫でていた。仮にも顔がどストライクの人にこんなの見惚れないわけないよね!と呆然とする私に
「あ、ごめん、そんなつもりじゃ!」
と私の反応が予想と違ったのか、焦って私と距離を取る茂木さん。照れくさそうにハニカム姿は一気にかっこいい茂木宮くんからいつもの茂木さんへと逆戻り。
「で、どうしたの?サプライズ……にしては時間が遅すぎない?」
時計を見れば、時刻はもう深夜の2時。
「こんな時間に人を呼び出すなんて、茂木さんぐらいだよ。」
と呆れて笑うと、突然茂木さんは真剣な顔つきで語り始めた。
「最近、ゆうなぁもぎおんでお仕事頂けるようになったじゃん?」
「ん?うん、有難いことにね?」
「それでさ……ゆうなぁ、もぎおんじゃなくて、なぁおんっていうのがあって……」
「……え?何、嫉妬?!(笑)」
まさかあの茂木さんがこんな言葉が聞けるなんて、耳をかっぽじってよく聞こえるように近づくと
「ね!真剣なのー!」
ってあまりにも困った顔して怒るから、笑いが耐えに耐えられず私の口角から笑みが零れ始めた。
「べ、別にさ!私はおんちゃんの彼氏を気どるつもりなんてないよ?!でもさ……
1番でいたいじゃーん!!」
駄々っ子のように手足をじたばたとさせる茂木さん。
(あーあ、これじゃせっかくの男装が台無しだ)
と思いながらも、あまりに茂木さんらしくて、私は堪えきれずに爆笑してしまった。
「1番も何も、そもそもゆうなぁって付き合ってるよ?」
「………え!?そうなの!!!?」
「えっ!!知らなかったの!!?」
結局ただの茶番になったけど、茂木さんにもちゃんと1番という自覚はあったみたいで、それだけで私はなんだかとても嬉しくなった。
「ねー!最後にもう1つだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「かっこいい?」
「……かっこいいよ(笑)」