DB短編集

□Vegetto
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「あ、それもう使わないからしまってー」

ほいほいと返事をしながらベジットが冷蔵庫をあける。




そう、今、名無しとベジットは最近寒くなってきたこともあり体の温まるもの、そうクラムチャウダーをつくっているのだ。




今晩のメニューは言わずと知れたクラムチャウダー。
もちろん、いつも通りたくさん作るつもりではあるのだが、なんせ大食いの狼がいるため一晩で無くなってしまうだろう。





名無しは肌寒くなってくるとよく野菜スープなどの体の温まるスープをつくってサーモスに入れて職場へと持っていくのだ。
だが、それも数年前までの話で、現在は出番を無くしたサーモスちゃんは部屋のどこかで眠っていて居場所もわからない。


いや、ただ単に自分が失くしているだけなのだが…




そんな事をボーッと考えながら付けっぱなしにしているテレビから、"今のこの世の中で大事にしていることは何ですか"と言う題でインタビューされた若い女性の声が流れてきた。




(やっぱり、何事にも断る勇気ですかね)




ほうほう。

確かにそうだと思うし、今も画面の中で相討ちを打つアナウンサーに同感だが、勇気を持っていても難しいのが世の中で…、でも勇気を持つのは素晴らしいことで…なんて少し考えだした名無しは鍋の火を弱火にするとテレビの会話に集中した。



結局、その後2人目から話が変わってクラムチャウダーへと意識を戻すとベジットが急にこんな事を言い出した。



「なあ、名無しも嫌だと思ったらちゃんと拒否するんだぞ」


「わかってるって」


本当か?なんて心配したフリで聞き返して茶化し始めたベジットを他所に鍋の中を味見してみる。





「アツッ!!!」



思いきり素手で鉄の蓋を掴み上げた名無しの指は見事に撃沈した。

馬鹿だな、これで3回目だぞ、と笑われながらもすぐに水に手をつけさせられ、少女漫画の様によくあるシチュエーションに苦笑いしながら今はジンジンする指を冷やすことに専念する。


「よし、仙豆とってくるか」




なんて言って窓を開け出す彼を大丈夫、大丈夫だと止めながら、ある程度時間も経ち氷も使うことで冷えた指を水から引き上げると次は見せろと近寄ってきた。




「いや、いい」
「何が、いいだ。傷が深かったらどうする!」


それでも嫌だと拒否し続ける名無しに少しムッとした様子で手を伸ばしてくるのを交わして後ずさるとニヤリとベジットが笑うのがわかった。




この顔は前にも見たことがある。
捕まったら次にクラムチャウダーと会うのは次の日になる顔だ。
いや、おはようを通り越してこんにちは、だ。



だが、今日は昼ごはんをあまり食べてなかった名無しにとってそれは避けたい事で。


今回は負けじと拒絶してみせる。
またそれに負けじとベジットも巧みな言葉や動作で反撃してくる。






「もういいだろ」


そして、この状況が5分ほど続いてだんだんとめんどくさくなってきた頃、ベジットが「ほれ、もう見せてみろ」といつもの調子に戻り手を伸ばしたが、今日は何故かこのまま拒否したい気持ちが芽生えてしまい、



「嫌だ」

と言ってしまった。




嫌だ言った後直ぐに『あ、ごめん、見せるね』っと言おうとしたがベジットに阻まれてしまう。



「嫌?」
「て、手どうぞ」





「嫌だって?…まあ、たまには本気で嫌がってんのもいいかもな」

「ちょっと!」




先ほどとはまた違うピリピリとした空気の中、怒ってみえる表情でこちらを見るベジットにパシッと腕を掴まれキッチンを通る、鍋の火を止めるコースで寝室へと連れて行かれてしまったのだった。







こんばんは、、クラムチャウダー。





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(たまには拒否されるのも悪くないな)
(ヘンタイ)
(なんか言ったか?)
(ううん、
クラムチャウダーのおかわりは?)
(おう、さんきゅっ)






end,
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