DB短編集

□風の強い日
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彼氏ができたら女は変わるなんてよく聞くけれど、実際そうだと思う




今までわりと長い間仲良くしてきた友人でさえ彼氏ができた途端パタリと音沙汰がなくなり。

久しぶりに会うとなっても、予約したお洒落なディナー後では彼氏と会うと言って解散に。




私は彼氏という本命の前の前菜なのだろうかと思ってしまう。
もちろん全員が全員そうだとは言わないが。





結局、自分に彼氏がいないことが問題だという事は痛いくらいにわかる。
でも、いざ自分に彼氏ができたとしても友人と会う時間には彼氏の話題はあまり持ち出したくないし、相手に失礼だと思う。
それに全く違う環境で育った2人が両想いになるなんて運命だと思う。





そんな自分自身の考えは曲げたくない頑固者なので、今日はモテる女に指導される形となった。



「流石にそろそろ作らないと一生できないよ」




『いや本当にそれはごもっともなんですけど、、、ね』





ダイエット後にアルコールを受け付けなくなった体のために烏龍茶をひたすらに頼む名無しは何がね、よ?なんて怒られている。



そのうちにまた隣の席が空き、また次の客が入ってくる。グループ客だろうか、やけに騒がしい。





「最低でも自分のいいところを一つでも多く磨いて武器にすることね、わかった?」



『た、例えば?』


「うーん、私だったら胸かしら」



『なるほど。』



むね…か。
ダイエットで失った貧相な胸を思い出す。まあ、元からあまりある方ではなかったのだが現実はそう甘くない。




「まあ、最初は相手が自分に興味なくても落としてしまえばこっちのもんだから。まずはとにかく相手を褒めちぎるのよ」



『…はい』




腑に落ちない返事をする名無しをニッと睨みながらわかった?とさらに念を押された。




偽物の自分を見せてまで相手を落とすのか、本物の自分はいつどう見せるのか、一体どうなるのか…なんて永久迷路に突入しそうだったため考えるのはそこでやめておいた。




ましてやここで未だにに運命なんてものを信じているだなんて言ったら一生笑われそうだからあえて言わないことにした。




そしてだんだんと飲み会はお開き近づく。




「本当に頑張るのよ?」



『わかってるって、とりあえず褒めまくるね』




何か違うけど先ずはそれを頑張ってと応援される形で今日の集まりは解散となった。











寒っ
待ってこんなに寒かったっけ





地下鉄で帰る友人は店を出るなりあと5分で来る電車に乗りたいと走り去っていったためバス帰りの名無しは1人でバス停へと向かう。






確かカードにはまだ二千円ほど入っていたはず…が





『ない……』




まさかさっきのお店に忘れてきたというのだろいうか、
いや、絶対に取りに戻りたくない、、





世間の風当たりに打ちひしがれた今の気分ではなかなか取りに戻ろうという気持ちは生まれなかった。





もう現金でいいやと思いながらも取りに帰らなければと思う。なんてわがままで優柔不断なのだろう。




彼氏ができない原因は自分が思っている以上に沢山あるようだ。





結局、二度手間になりたくない、来週からの仕事に悪影響を与えたくない、何よりも休日はゆっくり過ごしたい、の考え3つにより取りに行くことに決まった。








そして、先程のお店の人に落とし物をしたと言って席まで見てきてもらったのだが肝心のカードは見当たらず、後日見つけたら電話してくれると言ったのでそれに甘えさせてもらい大人しく帰ることにした。





『すみません、お願いします』




ああ、2000円は痛いなあ
見つからなかったらまた新しいカード買わないとな




なんて考えていると、ガヤガヤと騒がしいメンバーは今頃お開きにしているのか会計の方へとやってきていたので電話番号だけ渡してすぐに外へ出た。





『え?』



外へ出てすぐに肩を叩かれ、これ違うかと言った男性から小さなケースを受け取った。
まさしく自分の探していたものだ。





これは!


ああ良かったこれで帰れると安否が漏れた様子の名無しにカードケースを持っていた男が笑った。
それを見て慌ててお礼を言う。





「おめぇ面白いヤツだな」




おめぇ?
少し変わった方言の人だとは思ったがカードを見つけてくれた恩人には変わりないためとにかくお礼を言った。
だが、一言言葉を交わしただけなのに何故かまた会いたいと思った。
不思議な感覚だ。






「1人だったか?」


『いえ、友達はもう帰っちゃったので…』



迎えにきてくれる男も居ない寂しい女だと思われてないだろうか



ふとそんな考えが頭をよぎるが、最終のバスの時間を思い出して現実へと引き戻される。



『あ!すみません、もう行かないとバスに乗り遅れちゃうので…』




「そうなんかそれは悪かったな、また何処かで会えるといいな」




まさか同じことを考えていたとは!
元気にニコッと笑う彼をみて少しドキッとしたがこんな現金な女ではダメだと自分を奮い立たせる。





『いえ、本当に見つけてくださってありがとうございました!では、またどこかで!』




どさくさに紛れてまたどこかでなんてお世辞を本気にしている私を今日だけはどうか許してほしい。




名無しは先ほどまでの重い足取りとは打って変わって軽やかな小走りでお店を去っていった。








[おっと悟空何話してたんだよ]
[ヤムチャ、また会いてぇって言われたらお世辞でも会いに行くか?]
[俺だったら会いに行くかな]
[そっかオラもそうする]




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