DB短編集
□ここから始まる何か
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会社のオフ会とか何やらで顔見知り程度となってから、何回か話す機会があり、ある程度の距離感が掴めてきた頃、見た目は強面だが優しい一面のある彼にほとんどの悩みは話せるまで仲良くなっていった。
相変わらず口は悪いが。
なあ、恋愛はしてんのか?
そんな彼に1週間前に偶然ばたりと会い、名無しはその時に何気なく聞かれた話の内容がずっと頭の中でこだましていた。
当時は上手く誤魔化したのだったのだが…
恋愛はしていない。
正確に言えば恋愛を諦めたのだ。
なぜなら、自分自身これでもかというほどに恋愛がうまくいかないのだ。
例えば、
好きな人と遊ぶ仲になったところでその好きな人の意中の人を周りから聞いて知り、挙げ句の果てに冗談で本人に聞くと[あれっ知ってたんだ笑]なんて言われ、あえて私自身を傷つけないように友達以上恋人未満で過ごしてやってたんだと、、、そんなお門違いな自分が悲しくなった。
他にも、自分だけにくれていたと思っていたおはようおやすみメールを多数の女性にも送っていたのを知った時の衝撃は計り知れない。
まだまだあげるとキリがないのだが、そんなことが立て続けに起こり完全に自身消失しているのが現在の名無しなのであった。
実際には誤魔化せたといっても不自然な雰囲気で終わったために、次の飲み会で顔を合わせるのは少し気まずい。
なぜ、会社の違う彼がフラッと立ち寄ったカフェにいたのかわからないが運命というのはときに残酷である。
恋愛不適合者の気持ち悪いやつと思われてはいないだろうか…
嗚呼どんな顔して会えばいいのだろう…
その日の夜、日付と店の名前と来いとだけ書かれた文が届き、心の中で思い切り悲鳴が出たのは言うまでもない。
ここで変に断れば本物の恋愛不適合者認定されてしまう…
との謎の思い込みにより名無しは了解の返事をしてしまったのだった。
とうとう約束の日はやってきた。
いつも通りの金曜日が来ただけなのだが今回はやけに早い5日間だった。
仕事が終わり指定された店の前に行くと、なんと大人な雰囲気のバーのこと。
場違いな気がしてならない。
心まで浮いている、、
と扉を開けるのを躊躇していると後ろから聞き覚えのある強めの声がした。
「おい、何やってんだ」
『あ、バーダックさん』
またもや急に現れた彼に「ほら入るぞ」と言われ、そのままついて行くと彼は行き慣れているのか店のカウンター席へ着くなりよくわからない名前の酒を頼んだ。
そんな中、名無しはというと、大人しくバーダック隣の席につき、いつもの優しい店主のいる居酒屋が良かったなんて生ぬるいことを考えていた。
「おい何考えてんだ」
『え、あの実はこういう所なかなか来ないので』
なんかこう慣れなくて、と今日はモジモジ話す名無しをみてバーダックは静かに笑った。
前々から気にはなっていたヤツとある程度の距離感を掴めた頃だった。
いつも飲み会に参加している男共が{可愛いけど恋愛下手の名無しのことだから俺でもいけるんじゃないか?}なんて話をしている所を目にして、前々から疑問に思っていた恋愛の話を異常に避ける名無しに急遽核心を迫ってみたのだが微妙な雰囲気になった。やはり、不味かっただろうか。
とりあえず2人で会う約束を一方的に取り付けるのには成功したバーダックだったのだが、こうして2人で会うと柄にもなく緊張しており恋愛下手は自分の方ではないかと思った。
なんとかいつもの調子に戻そうと話題を仕事の話や最近起きた出来事なんかにするといつも通りに食いついてきた彼女に前回の話題をぶつける。
すると一瞬困った顔をした名無しはとうとう観念したかのように話し出した。
『私、恋愛にあまりいい思い出がないもので、今は少し休憩してるんです』
「勿体ねぇ」
『え?』
「だから勿体ねぇって言ってんだ」
『いえ、そんなこと言われてましても本当に恋愛はダメダメなんですよ。モテモテなバーダックさんと違って』
こないだファンの子が話してましたよーと目を逸らして、やってきたお酒を見つめながら言うもんだからまた追い詰めてしまいたくなる。
「今気になってる相手は?」
『特にいません』
「じゃあ付き合え」
は?と豆鉄砲を食らった顔をして驚いている彼女にこのモテモテらしい俺が恋愛の仕方を教えてやると言い、初めはバーダックに反論する名無しだったが最後には上手く丸め込まれてしまっていた。
やがてすっかり大人しくなった名無しは『本当に恋愛ダメなんですけど克服できるでしょうか。』と心配そうにこちらを見ている純粋すぎるその姿にバーダックはとても楽しそうな顔で心配ないと一喝した。
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